下北医療圏の民間病院で唯一、分娩(ぶんべん)を取り扱っていた北村医院むつレディスクリニック(青森県むつ市)が、5月末で産科を終了した。北村隆院長(69)は「体力の限界。常勤医が私1人になってから2年間頑張ってみたが、安全安心なお産のためには複数の医師が必要」と話した。同医院の産科終了により、下北医療圏で出産に対応できるのは、むつ総合病院のみになった。北村医院は今後、内科と婦人科などの外来診療と妊婦健診は続ける。

 「1日1人ずつ生まれるのではなく、お産は重なる。48時間かかるお産もある」。北村院長は産婦人科医の過酷な業務を振り返った。一方で仕事の魅力を「無事に生まれてきた赤ちゃんを見て喜ぶお母さんの顔を見られること」と話す。産科を終了した実感はまだないというが、医師として死産、流産も診たことは「今でも複雑な思いを持ったままだ」。

 今後、下北医療圏で分娩を取り扱うのが、むつ総合病院だけになることに「理想形なのでは。今は妊婦や胎児のリスクがあらかじめわかるようになった。輸血が足りなくなる恐れもある。大きい病院で複数の医師がいる方が安心」と語った。

 北村医院は北村院長の父・晨(しん)さん(故人)が1949(昭和24)年に開業。平成以降、約1万3千件の分娩を扱った。北村院長は東京慈恵会医科大を卒業後、大学病院などで経験を積み、87年ごろ故郷に戻った。

 同医院は婦人科を含め全19床。下北5町村のほか、横浜町や六ケ所村の妊産婦も受け入れ、地域の病院として患者や妊産婦に寄り添ってきた。長年兄弟で診療を続けてきたが直近2年間は北村院長のみに。助産師もいない状態だったが、それでも年間約140件のお産を扱った。

 北村院長は「父の代から内科も小児科も診た。地域医療を担ってきた、多少の満足感はある」といい、今後は訪問診療の導入も視野に高齢者医療に重きを置くことを考えている。

▼「助産師不足も深刻」 むつ病院産科部長

 むつ総合病院の産婦人科は現在医師4人体制。北村医院の分娩(ぶんべん)対応終了の影響は既に現れており、公立病院の役割が増している。

 近年の年間分娩件数は北村医院約140件、むつ総合病院が約200件。同病院は5月以降、妊婦健診が昨年同期比約1.5倍に混み合い、分娩数は約1.3倍に。婦人科を含む全35床が一時的に満床状態になったこともあった。一方で医師が増える予定はない。

 むつ総合病院は、難産が予想される妊婦の情報共有や受け入れで北村医院と連携してきた。同病院の石原佳奈産科部長(37)は「産科は突発的に予期しないことが起こる。夜中に呼び出され、そのまま朝から晩まで働くことが連日続くこともある。心身ともに消耗する。それをよくお一人でやられてこられたな、というのが正直な感想」と語り、北村隆院長(69)をねぎらった。

 県内の産婦人科開業医は高齢化しているという。石原部長は「開業医がお産を取りやめていく例は下北に限らず増えていく可能性がある」と話した。

 むつ総合病院で分娩数が増えると、若手医師が経験を積む機会が増えるというメリットがある一方、限られたスタッフで対応せざるを得ないという課題もある。

 石原部長は「産婦人科医不足も課題だが、助産師不足が深刻。きつい業務なので、待遇改善が望ましい。産婦人科医を増やすためにも仕事の魅力を若い人に伝えていきたい」と語った。

引用元:
下北圏の分娩、むつ総合病院のみに 唯一の民間産科が終了「1人で対応、体力の限界」(東奥日報)