同一の助産師が、1人の女性の妊娠から出産、育児を切れ目なく支援する「継続ケア」。産後うつを防ぎ、安定した母子関係や愛着形成につながるとして、ニュージーランドやカナダなどの諸外国で定着している。国内でも、自民党議員有志がまとめた「こども庁」創設に向けた緊急提言(3月19日)に実施体制の強化が盛り込まれた。継続ケアとは何か。なぜ必要なのか。ケアを受けた女性の体験談とともに、普及の現状や課題を紹介する。(伊豆田有希)

 ■悩み、不安に寄り添う
 「3人目を産んだ時の感動は1人目、2人目と同じだったけど、安心感はまったく違った」。焼津市の自営業今村里沙さん(38)は第3子を助産院で産みたくて、妊娠初期から、静岡市駿河区の開業助産師斉藤麻友佳さん(47)の健診と継続ケアを受けた。「斉藤さんは妊娠の経過も家族のことも、私のことも全部知っている。私もお産までの約10カ月で、彼女がどんな人か分かっていた」
 妊娠後期に出血した時はすぐ斉藤さんに連絡して自宅に来てもらった。2人で市助産師会が提携する病院に向かった。切迫早産との診断でしばらく入院し、退院して数日後に助産院で出産した。
 出産は家族全員で迎えた。陣痛の合間もずっと「すごく痛いけど、いいよいいよ。いい感じだね」と、斉藤さんが普段と変わらない様子で寄り添ってくれたことが、何よりも心強かった。「特別な出来事だけど、日々の生活の延長のような時間だった」
 1人目と2人目は、実家のある福井県のクリニックで産んだ。お産の進み具合を尋ねていいのか、分娩[ぶんべん]台で体を動かしていいのか、面識のないスタッフに気を使った。産後、焼津市に戻ると、乳房のトラブルを誰に相談すればいいのか戸惑った。
 3人目の産後は妊娠中と変わらず、いつでも、どんなささいなことも、斉藤さんに相談できる安心感があった。お産から2年たった今も、斉藤さんに近況を報告するなど連絡を取っている。
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 長泉町の看護師古倉えりさん(27)は2019年8月、当時の自宅近くにあった開業助産師草野恵子さん(68)の助産院=静岡市葵区=で第1子を産んだ。5年前に産科病棟で働いていた時の「分娩台で妊婦が1人で苦しみ闘う」イメージから、妊娠が分かった時はお産が怖くて仕方なかった。「赤ちゃんが生まれても接し方が分からない。ずっとおなかにいればいい」と思った。腹部のエコーで白黒画像を見ても、わが子がいる実感が湧かなかった。
 健診のたびに、本音を草野さんに打ち明けた。毎回1時間くらい話した。「この後、赤ちゃんの健診をするから見ていったら」と何度か誘われ、さまざまな月齢の赤ちゃんを見た。「かわいいし、抱っこしているママの姿もいいな」。そう感じるうち、次第に「私も産める」「早く赤ちゃんに会いたい」と、お産に前向きになっていった。「お産では1度も弱音を吐かなかった。草野さんがいたから頑張れた」
 産後2カ月で夫の実家近くの長泉町に引っ越した。周りに知り合いがいないこともあって、毎月1回、赤ちゃんの健診で助産院を訪ねるのが一番の楽しみだった。育児に困った時やなんとなくしんどい時は電話をした。「妊娠、出産については、私と子どものことを一番よく分かってくれている人だから」。仕事に復帰した今も、草野さんを訪ねている。
 
 ■医療機関と助産院の連携例も
 継続ケアの普及に努める全国組織「出産ケア政策会議」メンバーの草野恵子さん=前県助産師会会長=によると、継続ケアとは、管理や指導をするのではなく、対等な信頼関係の下で女性を支えること。
 「本人が納得した、心が満たされるお産を経験すれば、自分に対する自信につながり、子育てに前向きになれる」。そんな「いいお産」を迎えるために、妊娠期からの継続ケアが大切という。「どこで産むか、だけでなく、誰と産むかにも目を向けてほしい」
 今村里沙さんや古倉えりさんが体験した継続ケアは、開業助産院で行われている。しかし人口動態統計によると、2018年に助産院で生まれた子の数は、県内の出生数の1.3%。98.6%は病院かクリニックだ。
 医療機関の中には、「担当助産師」が受け持ちの妊婦の妊娠期を継続的にサポートするところがある。しかし助産師の勤務は交代制。妊産婦以外の患者が入院する混合病棟で働き、看護業務を兼ねることも多い。現実的には、妊婦一人一人に寄り添い続けるのは難しい。
 出産ケア政策会議は、医療機関で出産したとしても、希望する全ての妊婦が継続ケアを受けられる仕組みを目指している。だが、実現には助産師の養成課程や勤務態勢の見直しなど、大がかりな変革が必要だ。
 そうした中で、医療機関と助産院が協力して、切れ目のない継続ケアを実現した例がある。伊東市民病院の産婦人科部長を務めた荒堀憲二さん(69)=前同院管理者、元同院長=が今年2月に退職するまでの13年にわたり、伊豆市の桃太郎助産院院長の小柳布佐さん(73)と行った。
 助産院で出産予定の妊婦が、予定日を過ぎても陣痛が来ないなど、何らかの医療介入が必要になったときは、小柳さんと妊婦が一緒に病院へ行った。陣痛時や分娩時、帝王切開の前後や産後も、できる限り小柳さんが付き添った。産婦は経膣分娩なら当日か翌日、帝王切開でも4日目と、通常より数日早く退院し、助産院に入院。小柳さんが常に寄り添う中で体を休め、授乳や沐浴[もくよく]などを学んだ。
 荒堀さんは「小柳さんの付き添いは妊婦の不安を軽減し、安全なお産につながる。妊婦にとっても病院にとってもメリットがあった」と強調する。妊婦に緊張や不安、羞恥心などのストレスを与えると、アドレナリンが分泌されて陣痛を促すオキシトシンが作用しなくなり、難産になりやすいことが知られている。
 「異常のない妊婦にとって大事なのは、日々の生活や家族との関係。それらを包括的に支援する助産師の存在は、産後の育児や親子関係にも良い影響をもたらす」と力を込めた。
 
 ■産後うつ なりにくい
 出産ケア政策会議共同代表の1人、ドーリング景子さん=京都大大学院医学研究科助教、助産師=によると、助産師による継続ケアは、ニュージーランドでは国の制度として確立している。イギリスやカナダ、オーストラリアでは、国や州政府が推進している。
 同会議が国内で2021年2、3月、第1子をローリスクで出産した1年未満の産婦を対象に行った調査では、開業助産師の継続ケアを受けた産婦139人のうち、78.4%が「出産直後にまた産みたいと思った」と回答。医療機関で毎回異なる助産師にケアを受けた産婦716人のうち、そう答えたのは50.0%だった。両産婦を比べると、継続ケアを受けた産婦は産後うつになりにくく、育児不安が低いことも分かった。

引用元:
妊娠から育児まで 助産師の継続ケア、心強く【こち女】(静岡新聞)