国立がん研究センター(がんセンター)、国立成育医療研究センター(NCCHD)、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JHRPB)の3者は4月14日、妊娠を経験した日本人女性約4万6000人を対象に、自身の出生体重と、妊娠期における妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病との関連を調査し、自身の出生体重が3000g未満の女性では、妊娠高血圧症候群のリスクが高いことが認められたと発表した。

同成果は、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)によるもの。詳細は、疫学専門誌「Journal of Epidemiology」に掲載された。

コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、疾患の罹患率や死亡率を比較することで、要因と疾患との関連を調べる観察研究だ。観察研究は複数の手法があるが、コホート研究はほかの観察研究よりも時間とコストはかかるが、曝露要因(原因)と疾病の罹患や発症(結果)を時間の流れに沿って追跡することから、因果関係を明らかにする手法としてより望ましいと考えられている。

国立がん研究センターを中心として行われているコホート研究は2つある。1つは1990年に開始された「多目的コホート研究」で、戦前、戦中、戦後すぐに生まれた日本各地の約14万人を対象に、20年以上にわたって生活習慣や生活環境と疾病の発症についての追跡調査が実施されている。全国の保健所や大学、研究機関、医療機関などと共同で実施されており、日本における大規模かつ長期追跡が行われているコホート研究の1つだ。

そしてもう1つが、戦後の新たな生活習慣との関連についての調査として、2011年から開始した「次世代多目的コホート研究」で、今回の研究もそれに含まれる。こちらも約11万人を対象とし、大規模に実施されている。

こうしたコホート研究を含めてこれまでの研究から、出生体重が少ない女性は、その成人期において高血圧、糖尿病や心疾患などのリスクが高いことがわかってきている(低出生体重は、出生時の体重が2500g未満のこと)。

また、欧米の疫学研究において、出生体重が少ない女性は、妊娠時にも妊娠糖尿病などを発症するリスクが高いことも報告されているという。しかし、日本人を対象とした研究は行われておらず、日本人での関連についてはよくわかっていなかった。そこで今回の研究では、日本人女性を対象として、出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病のリスクとの関連が調査された。

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低出生体重で生まれた女性は、自身が妊娠した時に妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病のリスクと関連があるかが調査された (出所:国立がん研究センター Webサイト)

調査は、2011年から2016年にかけ、次世代多目的コホート研究対象地域(秋田県、岩手県、茨城県、長野県、高知県、愛媛県、長崎県)に居住している、今回の研究に同意した40〜74歳のうち、妊娠経験のある女性約4万6000人が対象とされた。

自身の出生体重と、妊娠時の妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の有無は調査開始時のアンケートの回答によるもの。そして、自己申告による自身の出生体重が3000〜3999gを基準とした、そのほかの出生体重(1500g未満、1500〜2499g、2500〜2999g、4000g以上)と、妊娠高血圧症候群と、妊娠糖尿病の有無との関連が検討された。




その際、地域、出生年、教育歴、高血圧または糖尿病の家族歴、受動喫煙年数、身長、年上の兄弟の有無、初回妊娠時年齢、喫煙習慣、20歳時の体格が統計学的に調整され、それらの影響は可能な限り取り除かれた。

その結果、出生体重が3000〜3999gのグループと比較して、2500〜2999g、1500〜2499gおよび1500g未満のグループで、妊娠高血圧症候群のリスクが統計学的に有意に高かったという関連が見られたという。出生体重が4000g以上の場合においても、同様に、妊娠高血圧症候群のリスクは高くなっていたが、統計学的に有意な関連は見られなかったとした。

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出生体重が3000〜3999gの女性を基準とした場合の妊娠高血圧症候群との関連 (出所:国立がん研究センター Webサイト)

また、出生体重と妊娠糖尿病については、出生体重が3000〜3999gのグループと比較して、1500〜2499gのグループで妊娠糖尿病のリスクが高いという関連が確認されたとする一方、そのほかのグループについては、関連が見られなかったという。

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出生体重が3000〜3999gの女性を基準とした場合の妊娠糖尿病との関連 (出所:国立がん研究センター Webサイト)

これまでの欧米の先行研究において、出生体重と妊娠高血圧症候群のリスクとの関連が報告されていたが、今回の研究結果から、出生体重が3000g未満であった日本人女性でも、妊娠期における妊娠高血圧症候群のリスクが高いことが判明したという。

現時点では、メカニズムは明確ではないとしているが、低出生体重児は、血管の内皮機能が弱いことや、腎機能が低下しやすいことが報告されており、このことが妊娠時に妊娠高血圧症候群のリスクと関連が見られた理由の1つと考えられるという。

一方で、欧米での先行研究では出生体重が多い場合も、妊娠高血圧症候群と関連があることが報告されている。しかし今回の研究では、出生体重が4000g以上(巨大児)であった女性は、妊娠高血圧症候群のリスクは高かったが、統計学的に有意な関連は見られない結果となった。この理由には、今回の参加者には、出生体重が4000g以上と回答した女性の人数が少なかったことが考えられるとしている。

また、これまでに出生体重が少なかった場合、成人後の糖尿病のリスクが高いことも報告されている。今回の研究では、成人後の糖尿病との関連と同様、出生体重が少ない(1500〜2499g)グループでは、妊娠糖尿病のリスクが高いという関連が見られた。しかし、さらに出生体重が少ない(1500g未満)グループでは妊娠糖尿病との関連が見られなかった。その理由としては、出生体重が4000g以上と同様で、1500g未満のグループの人数が少なかったことが考えられるという。

そして今回の研究の限界点として、妊娠から出産までの期間が把握できていないことや出生時体重を自己申告で行っていることなどが挙げられている。



引用元:
出生体重が3000g未満の女性は妊娠高血圧症候群のリスクが高いことが判明(マイナビニュース)