がん医療の飛躍的な進歩により、完治するがんが増えている。しかし、一方でがん治療による影響が不妊の原因になるケースも増えている。
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 そのようながん治療に伴う不妊に備え、厚労省は新年度(4月)から若い患者が事前に卵子や精子を凍結保存する費用を助成することを決めた。男女とも凍結保存する時点で43歳未満が助成の対象となる。

 男性の場合、どんな治療が男性不妊の原因になる可能性があるのか。東邦大学医療センター大森病院・リプロダクションセンター(泌尿器科)の永尾光一教授はこう話す。

 「精巣は抗がん剤や放射線に対する感受性が強いので、精子をつくる機能が低下(造精機能障害)して、乏精子症や精子無力症、無精子症になるリスクがあります。それに治療で神経障害を合併すれば、勃起障害や射精障害が起こる可能性があります。また、脳からは精巣に精子をつくるために働きかけるホルモンが分泌されています。脳腫瘍の治療によってホルモン分泌が低下し、成熟した精子がつくられない場合もあります」

 妊娠させる能力を「妊孕能(にんようのう)」といって、それを温存することを「妊孕性温存」という。男性の場合は「精子凍結保存」が、がん治療に伴う不妊を回避できる可能性のある唯一の妊孕性温存になる。

 しかし、がんを発症した時点はパニックで、患者本人も家族もそこまで頭が回らない。

 がん治療が優先されるので、医師から治療前に妊孕性温存に関しての説明が十分でないと、後から不妊に悩むケースがあるのだ。子供を望むのであれば、がんの治療開始と並行して妊孕性温存を検討した方がいいという。

 精子凍結保存は、精子検査と同じで病院の採精室でマスターべーションによって専用のカップに精液を採取する。あとは病院の方で精子だけを取り出し、液体窒素のタンクの中でマイナス196℃の温度で保存してくれる。凍結すると半永久的に保存でき、経年劣化することはないという。使用するときは、解凍して顕微授精する。

 「がん治療前に精子凍結保存した良い状態の精子を使った場合、女性が30代以降では1回の顕微授精で妊娠する確率は平均20%くらいです。30歳すぎでは、妊娠するまで普通5回くらいは顕微授精が必要です。また、がん治療で無精子症になった場合、『マイクロTESE(テセ)』という手術で精巣内から精子を採取できる可能性はあります。しかし、精子の質は落ちるので、妊娠率はがん治療前の精子凍結保存による顕微授精よりも低下します」

 精子凍結保存にかかる費用(保存料)は自由診療になるので医療機関によって異なるが、ほとんどの施設は1年更新になる。東邦大学の場合は、年間2万2000円(税込)になるという。

 精子凍結保存を行っている施設は、日本生殖医学会のホームページ(男性不妊症アンケート回答施設一覧)に掲載されている。 (取材・新井貴)

 ■永尾光一(ながお・こういち) 1960年生まれ。昭和大学で形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻。両方の診療部長を経験し、二つの基本領域専門医を取得。2007年東邦大学医学部准教授(泌尿器科学講座)、09年現職。日本性機能学会理事長。日本生殖医学会副理事長。日本メンズヘルス医学会理事。NPO法人男性不妊ドクターズ理事長など。

引用元:
がん治療に伴う不妊を回避「精子凍結保存」 厚労省4月から43歳未満に助成(iza)