「無精子症」には、精子の通り道(精路)が閉塞していて精子が出てこれない「閉塞性無精子症」と、精路には問題はないが精子をつくる機能に異常がある「非閉塞性無精子症」がある。

 閉塞性無精子症では、精路を開通させる手術が行われる。非閉塞性無精子症では、ホルモン補充療法で精子の出現が見込まれる「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」という病気以外は、手術で精巣から精子を採取して顕微授精が行われる。

 精巣から精子を採取する手術には、肉眼で精巣組織の一部を採取する「精巣内精子採取術(シンプルTESE)」という術式があるが、非閉塞性無精子症の場合、この術式では精子が見つかる可能性が低い。そのため手術用顕微鏡を使って、精子のいそうな精巣組織の一部を採取する「顕微鏡下精巣内精子採取術(マイクロTESE)」が行われる。

 東邦大学医療センター大森病院・リプロダクションセンター(泌尿器科)の永尾光一教授が説明する。

 「精巣内には『精細管』という細い管が600〜1200本詰まっていて、その一本一本に精子のもととなる細胞が生まれ、細胞分裂を繰り返して精子に成長します。マイクロTESEは、手術用顕微鏡(倍率20〜40倍)を使って精巣内をつぶさに観察し、『太い、白濁(はくだく)、屈曲している』という特徴のある精子のいそうな元気な精細管を採取するのです」

手術は局所麻酔で行う。片側の陰のうの皮膚を3センチくらい切開して、精巣を血管がつながった状態で一時的に体外に取り出す。そして精巣を半分に割って、良好な精細管を見つけ出し採取する。取る量は小指の先ほどくらいで、ごく少量だ。ここまで所要時間は1時間くらい。しかし、これで終わりではない。

 採取した精細管は、手術室内にいる「胚培養士」という医療技術者に渡される。胚培養士は、その場で観察用顕微鏡(倍率100〜400倍)をのぞきながら精細管を刻み、その内容物の中から精子を見つけ出す。精子が回収できれば、顕微授精のために凍結保存する。回収できず患者が希望すれば、反対側の精巣も行う。

 「顕微授精の成績を向上させるために新鮮な精巣内精子を使う場合には、女性の採卵とマイクロTESEを同日に行うこともあります。ただし、両側精巣からの精子回収率は約35%です。また、非閉塞性無精子症の一部には、Y染色体の『AZF』という領域が欠けていることがあります。欠失の種類によっては、マイクロTESEを行っても精子を回収できないことが分かっていますので、全例で手術前に検査(採血)を行っています」

マイクロTESEは日帰り手術で行われ、デスクワーク程度の仕事であれば翌日から復帰が可能という。手術費用は保険適用外なので施設によって異なるが、東邦大学の場合で片側手術が約25万円(税別)。Y染色体AZF検査も自費で3万5000円(同)になる。 (取材・新井貴)

 ■永尾光一(ながお・こういち) 1960年生まれ。昭和大学で形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻。両方の診療部長を経験し、二つの基本領域専門医を取得。2007年東邦大学医学部准教授(泌尿器科学講座)、09年現職。日本性機能学会理事長。日本生殖医学会副理事長。日本メンズヘルス医学会理事。NPO法人男性不妊ドクターズ理事長など



引用元:
【ここまできた男性不妊治療】胚培養士が精子を見つけ出す! 手術用顕微鏡で医師が採取 (ZAKZAK)