コロナ禍が始まって約1年が経過しました。真冬になってもインフルエンザの流行は見られなかった他、手足口病なども少なく、新型コロナウイルスの感染対策のために減らせることができた感染症は多いようです。しかし、性感染症であるクラミジアや淋病は横ばいでした。密を避けて手洗いマスクを真面目にやっても、性行動にはあまり変化がなかったのかもしれません。大幅減の予測もあった2020年の出生数も、約87万人(速報値)と、前年を約2万5000人割り込む程度となりました。そこで、妊婦さんに向けて、新型コロナウイルス以外の普遍的な感染症について、改めて注意を喚起したいと思います。
できる限り妊娠前に予防接種を
妊娠中の感染症の中で、何らかの病原体がお母さんから赤ちゃんに感染するケースを母子感染と言います。母子感染には、妊娠中の胎内感染、出産時の産道感染、出生後の経母乳感染などがあります。風疹、肝炎ウイルス、HIV、梅毒、HTLV−1(母乳でうつる白血病のウイルス)のように、妊婦健診で全員に検査するものもありますが、まだ発見されていない感染症や、一般には検査が行われない感染症もあります。風疹やサイトメガロウイルス感染症、トキソプラズマ症のように、赤ちゃんに先天的な病気を起こすものもありますし、りんご病や麻疹のように、赤ちゃんが重度の貧血になったり、流産や死産につながったりするものもあります。
風疹、麻疹、水ぼうそうのように、予防接種で防げるものに関しては、できる限り妊娠前に抗体検査か予防接種を受けていただきたいです。しかし、予防接種がまだ存在しない感染症は多く、妊娠中は感染予防を意識する必要があります。
その代表例がトキソプラズマとサイトメガロウイルスです。
トキソプラズマ…加熱されていない肉は避けて
トキソプラズマは、原虫という小さな単細胞生物で、家畜の肉や感染したばかりのネコのふん、土の中などにいます。健康な大人が感染しても特に問題になりませんが、妊娠して初めて感染し、胎盤を通っておなかの赤ちゃんにも感染すると、流・死産、脳や目の障害などに至ることがあります。
近年は、妊婦さんは生ハムやローストビーフを食べてはいけないということが知られてきましたが、それは、このトキソプラズマの感染を防ぐためなのです。中心まで加熱されていない肉や生のナチュラルチーズといった食べ物のほか、ネコの世話などにも気をつける必要があります。魚や犬にはいないので、過剰に避けなくても大丈夫です。
サイトメガロウイルス…他人の体液に触れない
サイトメガロウイルスはどこにでもいるウイルスで、唾液や尿などの体液を介してうつります。これも、健康な人が感染しても問題ないのですが、妊娠中に初めて感染したり、免疫が低下した状態になったりした場合は、胎児に感染することがあります。
胎児に感染すると、流・死産、耳や脳の障害が起きることがあります。小さな子供の世話をする際にスプーンやコップを共有しない、唾液などの体液がついたらしっかり手洗いをする、その他のシチュエーションでも、他人の体液に触れないようにする、などの対処が必要になります。新型コロナウイルスの感染対策は、サイトメガロウイルスの感染予防にもなるでしょう。
知識があれば母子感染を防げたケースも
これらの感染症については、テレビやメディアで取り上げられるようになり、少しずつ知られるようになってきてはいますが、まだまだ「常識」とまではいかないようです。知識があれば母子感染を防げたかも知れないケースもあります。私のクリニックでは、啓発の意味も込めて、サイトメガロウイルスとトキソプラズマの抗体検査を、妊娠初期検査の中で実施しています。
先天性トキソプラズマとサイトメガロウイルス感染症の患者会「トーチの会」は、母子感染についての啓発活動を行っています。ホームページも、会が作成したパンフレットも、とても分かりやすいので、私のクリニックでも妊婦さんへの説明に使わせていただいています。妊婦さんやこれから妊娠を考えておられる方は、ぜひチェックしてください。
また、現在、「エリザベスと奇跡の犬ライリー」という、先天性サイトメガロウイルス感染症の娘エリザベスの母であるリサ・ソーンダースが書いた実話を元にした小説を絵本にしようという啓発プロジェクトが進行していて、クラウドファンディングも行われています。今はコロナ関連の社会活動に注目が集まりがちですが、ぜひ、こちらにも興味を持っていただき、ご協力いただけると大変うれしいです
引用元:
流産、死産、脳の障害に…妊婦さんに注意してほしい感染症 怖いのはコロナだけじゃない(読売新聞)