生まれつき子宮や膣(ちつ)がない「ロキタンスキー症候群」。約4500人に1人の割合で発症するとされるが、一般にはほとんど知られていない。病気に加え、周囲や社会の無理解に苦しむ患者たちにとって、子宮移植という新たな技術は大きな希望だ。だが一方で本人はもちろん提供者(ドナー)に掛かる負担も大きい。子宮移植の是非を巡る議論の行方を見守りながら、患者たちの心は揺れる。

【図解】子宮移植どうやって行う?

 福岡県に住むミキさん(30)は中学を卒業しても月経がなく、近くの産婦人科医を受診。さまざまな検査を受けたが原因は不明で、ホルモン治療なども効果はなかった。ロキタンスキー症候群の診断を受けたのは大学1年のころ。「子宮が確認できません。子どもは産めないでしょう」。ぼうぜんとして、医師の言葉は人ごとのように聞こえた。

 卵巣は正常に機能する。女性ホルモンの分泌や排卵もある。見た目は至って健康。日常生活に支障はない。でも子宮はない。「自分が生きる意味はあるんだろうか」。思い詰め、現実が恐ろしくて、病気から目を背けるようになった。

 2年前、初めてできた恋人に打ち明けた。「医学は日々進歩している。治療法があるかもしれない。病気と向き合ってみたら」。彼の言葉に背中を押され、患者でつくる「ロキタンスキーの会」にたどりついた。

 養子縁組や代理出産で子どもを持った患者がいることを知った。子宮移植についても学んだ。「いろんな選択肢があるんだと知り、前向きに生きるきっかけになった」

 パートナーの子どもを自分で産みたい。そのためには誰かから子宮をもらわなければならない。ドナー候補となる母はもうすぐ60歳。「娘を子宮のない体に産んでしまった」と自責する母をさらに手術で苦しめたくない。高額な費用もとてもまかなえそうにない。それでも思う。「子宮移植は大きな希望です」

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 九州の別の県に住むユカさん(25)は20歳のときにロキタンスキー症候群と診断された。「結婚は?」「子どもはほしくないの?」。悪気のない周囲の言葉に、毎回胸をえぐられるような思いがする。

 「好きな人の子どもが産めない。そう思うと、結婚どころか誰かを好きになることすら怖くて踏み出せない」。友人の結婚や妊娠の知らせはうれしい。一方で自分には無理だという暗い気持ちが広がる。どんどん自分が嫌いになっていく。

 誰にも相談できずに苦しんでいたとき、患者の会に出合った。「自分だけじゃないんだ」。救われる思いだった。

 子宮移植という新しい道が切り開かれるかもしれない。ユカさん自身は今、自分やドナーの体に傷を付けてまで子どもを産みたいとは思わない。ただ、望む人ができるようになったらいいな、と願っている。

 「この病気のことをみんなに知ってほしい。結婚や出産が当たり前じゃなく、いろんな生き方が尊重される社会になってほしい」

引用元:
「子宮が確認できません」医師の言葉にぼうぜん ロキタンスキー症候群の苦悩(西日本新聞)