生活に困窮している妊婦の出産費用を公費で賄う「助産制度」を受けられる医療機関「助産施設」が福岡市で減っている。かつて5施設あったが、2021年度から2施設になる。新型コロナウイルスの影響で困窮者の増加も予想される中、関係者は「母子を危険にさらすだけでなく、各施設の負担が増えて制度が立ちゆかなくなる恐れがある」と危機感を募らせる。

【画像】九州各県の助産施設の状況

 済生会福岡総合病院(福岡市中央区)は21年3月末で産科と小児科を廃止する。身近な医院での出産を希望する妊婦が増え、分娩(ぶんべん)件数は年100件前後に落ち込んでいた。「急性期医療とがん治療に特化する中で、分娩設備の維持が困難になった」と説明する。

 助産施設の一つでもある済生会は、助産制度を使う妊婦の受け入れ件数が市内で最多。市によると、19年度は86人中33人に上り、廃止の余波は深刻だ。

 市内に5施設あった助産施設は06年度以降、福岡市民病院(博多区)、福岡記念病院(早良区)が順次、産科を廃止し、済生会、福岡赤十字(南区)、千鳥橋(博多区)の3病院に。13年度から隣接する春日市の福岡徳洲会病院も福岡市の妊婦を受け入れている。

 既に済生会は分娩予約を受け付けておらず、福岡赤十字に影響が及んでいる。年20人ほど受け入れてきたが、昨年は30人に上った。精神疾患や若年、肥満、パートナーや親が非協力的といった不安要素を抱える妊婦もいる。西田眞産婦人科部長は「看護師や助産師、ソーシャルワーカーが連携して体調管理から育児用品の準備まで細やかに対応する。施設が減ると無理が生じてしまう」と指摘する。

 病院が遠くなると、母子のリスクも増す。福岡赤十字、千鳥橋の2病院は助産施設のない周辺自治体からも受け入れ、通院に1時間以上かかる人も。産前の定期通院の負担に加え、経産婦の場合は病院に向かう途中に生まれてしまう「墜落分娩」の危険が高まる。千鳥橋では陣痛促進剤を使った計画分娩にした例もあり、篠原和英副院長は「妊婦が通える範囲を超えている」と問題視する。
行政が助産施設に支払う費用は上限があり、福岡市によると一般的な1週間の入院で約42万円。通常の出産費用は福岡赤十字が約50万円、千鳥橋が約45万円など、上限を超える。助産制度で受け入れるほど赤字に陥る仕組みが新規参入を阻む。

 西田部長は「行き場をなくす妊婦が出かねないため、市が助成金を出すなど施設を増やす努力をしてほしい」と求める。市は「まずは制度の利用状況を精査し、市民のニーズを調べたい」と述べるにとどまっている。 (編集委員・下崎千加)

【ワードボックス】助産制度
 児童福祉法に基づき、主に生活保護世帯や住民税非課税世帯の妊婦が出産費用がない場合、公費で賄う制度。無保険状態で出産育児一時金(42万円)が支給されない人たちの救済が目的。都道府県、政令市、中核市が助産施設として医療機関を認可する。保健所との連絡調整が必要なため、ソーシャルワーカーがいる病院が多いが、医院もある。費用は国が2分の1、都道府県と市町村が4分の1ずつ(政令市、中核市は2分の1)負担する。

引用元:
どこで出産すれば…困窮妊婦ピンチ 減る「助産制度」対象の病院(西日本新聞)