新型コロナウイルスの感染拡大で、妊婦たちが不安にさいなまれている。国は妊娠中の感染について「胎児への感染はまれ」とする一方、「呼吸器感染症は妊娠後期に重症化する可能性がある」と注意を呼び掛ける。妊娠後期に感染して自宅療養の後に回復し、近く出産を控える愛知県内の30代女性が「頼る先がなく、不安だった」と心境を語った。(今村節)

 「まさか私が」。昨年11月下旬、女性は37.5度の熱を出し、せきが出始めた。1日もたたずに熱は下がったが、せきは止まらなかった。発症から1週間後、家族の感染が判明。その翌日に濃厚接触者として検査を受け、陽性と判定された。

 最初に頭をよぎったのは、おなかの赤ちゃんへの影響。保健所に電話で相談すると「母子感染の例はほとんど聞かない」と言われ、胸をなで下ろした。

 ただ、軽症で自宅療養となり、通っている産婦人科医院からは「受診を控え、何かあれば保健所に相談を」と指示された。せきは徐々にひどくなり、頻繁におなかが張るように。「張りがひどくなったり、不正出血があったりしたらどうしよう」。保健所には「緊急時は病院を探す」と言われたが、医療逼迫が報じられる中、「すぐ受け入れ先が見つからなかったら」と不安が募った。

 感染経路は分からない。マスクや手洗いはしていたが、地下鉄で週3回通勤していた。時々、繁華街で買い物をしたり、近所で外食したりもしていた。後悔にさいなまれ、おなかを元気に蹴る赤ちゃんに「こんなことになって、ごめんね」と謝った。

 先月初め、自宅療養が終わり、産婦人科医院を受診し、医師から「順調です。大丈夫ですよ」と言われた。超音波(エコー)検査の画面に赤ちゃんの姿が映り、「良かった」と全身から力が抜けた。

 しかし、コロナの猛威は収まらず、もうすぐ出産というタイミングで緊急事態宣言が再発令された。予定日前にPCR検査を受け、出産に臨む。「妊娠生活はコロナに振り回されてきた。今は、生まれる赤ちゃんがいつか感染しないかが不安」。おなかの子と共に、コロナ禍を乗り越えられることを願っている。


◆感染症法で入院対象…自治体判断で自宅療養認める

 新型コロナに感染した妊婦は感染症法に基づく入院勧告・措置の対象だが、国は自治体の判断で自宅療養を認める運用をしている。仮に容体が悪化し入院することになっても、妊婦や胎児の状態によっては受け入れが難しい病院もあり、課題は多い。

 愛知県産婦人科医会の澤田富夫会長は「先月から妊婦の感染者は急増し、高止まりしている」と指摘。「感染したまま出産したお母さんは、赤ちゃんと接触できない。妊婦は薬剤治療に制限もある」と、まずは家族を含めた感染予防の徹底を呼び掛ける。

引用元:
新型コロナ感染の妊婦、おなかの赤ちゃんに「ごめんね」 「受け入れ先 見つからなかったら…」不安募る (東京新聞)