2020年7月31日に政府が閣議決定した最新の少子化社会対策白書は、19年の出生数が90万人を初めて割り込み約86.5万人になった事実を「86万ショック」と呼ぶべきだとして、少子化にいっこうに歯止めがかからない現状に警鐘を鳴らした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大という新たなタイプの危機が発生し長引いており、妊娠・出産を望む女性にとって、複数の面から強い逆風が吹いている。

 厚生労働省は、このウイルス感染症の流行が妊娠活動などに及ぼす影響を把握する目的で、妊娠届の届け出件数について自治体に照会した結果を、20年の10月と12月に公表した。20年1〜10月の妊娠届け出数は72万7219件(前年同期比マイナス5.1%)。月別に見ると、緊急事態宣言が出ていた日が多かった5月の落ち込みが最もきつく、前年同月比マイナス17.6%。10月は同マイナス6.6%である。

図1:妊娠届出数(月別、2019年1月〜)

(出所)厚生労働省
 なお、母子手帳をもらうなどのために必要になる妊娠届け出時期については、時限は定められていないものの、厚労省では妊娠11週以下の時期の届け出を推奨しており、18年には93.3%の妊婦がこれに従ったという。

 妊娠届の減少は、やや時間を置いて、出生数のさらなる減少につながる。妊娠届け出数に例年と異なる動きが20年5月から出ており、12月の出生数に影響が出る可能性があることを理由にして、厚生労働省は20年の人口動態統計の年間推計を、出生数についてもとりやめた。だが、例年の計算式に基づいて推計すると前年比マイナス2%の84.8万人程度になるという(20年12月28日付朝日新聞)。

 そして今年、21年の出生数はさらに減少し、80万人を割り込む可能性がある。すでに昨年10月の段階で、「新型コロナによる経済の先行きへの不安が、今後も悪影響を与えかねない。来年は出生数が70万人台になる恐れもある」と、政府関係者が危機感を募らせていた(20年10月24日付共同通信)。

 言うまでもないが、子育てにはお金がかかる(特に補習教育の費用が膨らみやすい)。経済面で先行きの不安が大きいと、子どもを産むことをちゅうちょしがちだろう。

 さらに、新型コロナウイルスへの感染が妊婦・胎児に及ぼす影響が懸念材料である。

「リスクが高いとの報告はない」が……
 国立成育医療研究センターのホームページには、「妊娠中は感染しやすい、感染した際に重症化しやすいということはありますか?」との問いに対し、「妊娠中の感染報告例が少なく、まだ分かっていません。ただ、海外での報告例で、経過や重症度に関しては非妊婦と変わらなかったとされています。しかし、妊娠特有の免疫バランスや心肺機能の変化が影響する可能性がありますので、妊娠中は非妊娠時よりいっそうの感染防止に努める必要があると考えられます」との回答が示されている。

 また、「もし妊娠中に感染してしまった場合に赤ちゃんへの影響はないですか?」との問いに対しては、「今のところ、赤ちゃんの先天性障害や流産のリスクが高いとする報告はありません。また、2016年に流行したジカ熱のような、子どもの先天性障害や流産のリスクが高いとする報告はありません。妊娠初期の感染例はまだ出産に至ってはおりませんので、今後の報告を待つ必要があります」という回答が載っている。まだ分かっていない、報告はないとしつつ、過度の不安を与えないよう配慮されている。

 ところが、ウイルスが妊婦に及ぼす影響に関し、気になる調査結果も出てきている。

 日本産婦人科医会が全国で実施した20年6月までに新型コロナウイルスに感染した妊婦についての調査結果は、妊娠後期になると症状が重くなる人の割合が高いことを示したと、NHKが9月17日に報じた。回答があった医療機関で20年6月末までに新型コロナウイルスに感染した妊婦は72人。発熱などの症状があったのは58人で、CT検査で肺炎などと診断された人は妊娠29週以降の妊娠後期では19人中10人と、割合が高かった。

 妊娠後期で、呼吸困難などで酸素投与が必要になったのは19人中7人(37%)。こちらも妊娠初期・中期のケースよりも、比率がかなり高かった。

 米疾病予防管理センター(CDC)は20年11月6日、妊娠している女性は同じ年齢層の妊娠していない女性と比べて、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化や死亡のリスクが高いとする調査結果を公表した。日本の新聞は報じなかったようだが、この報告書に関する投稿記事を「フォーブス・ジャパン」が和訳して紹介した。

 新型コロナウイルスが妊婦に及ぼす影響については「研究の空白」があったので、これを埋めるため、CDCは大規模な調査を実施。PCR検査で新型コロナウイルスの陽性反応が出ており症状も現れていた15〜44歳の女性40万人以上(うち妊婦は2万3434人)からデータを収集して分析した。その結論は、「妊娠していて新型コロナウイルスに感染してしまうと重症化するリスクが大きくなる」というものである。原因は、妊娠中に起こる生理的な変化(心拍数や酸素消費量の増加、肺活量の減少、免疫システムの機能低下など)ではないかという。

 さらに、CDCが同じ日に結果を公表した、新型コロナウイルスが出産と新生児に及ぼす影響に着目した小規模な調査によると、新型コロナウイルスに感染した妊婦から生まれた約4000人の新生児のうち早産(37週未満)は12.9%で、一般的な早産の比率(10.2%)よりも高かった。また、この調査で新型コロナウイルスの検査を受けた新生児610人のうち、陽性反応が出たのは2.6%だった。ただし、どのようにして感染したのかは分かっておらず、陽性だった新生児の大半は新型コロナに感染してまもない母親から生まれたという。

妊婦が胎児にうつす可能性は低い
 20年12月27日にはCNNが、米医師会誌「JAMA」に掲載された米ハーバード大学医学部の研究者グループが執筆した論文について報じた。妊娠中の女性が胎児に新型コロナウイルスをうつす可能性は低いという結論であり、出産を考えている人には一安心の内容である。

 この論文では、米マサチューセッツ州総合病院の母体胎児学を専門とする医師らがボストン市内の3つの病院に入院した妊婦127人から得たデータを活用した。64人にPCR検査で陽性反応が出たものの、胎児については陽性反応が出なかったという。専門家はこの結果について、妊娠後期に新型コロナウイルスが胎盤を通じて胎児にうつることはなさそうなことを一部確信させる材料になったとしつつも、最終的な確認にはさらなる研究が必要とつけ加えた。

 SNS(交流サイト)などには、新型コロナウイルスが妊婦・胎児に及ぼす影響に関してさまざまな情報があり、不安心理をぬぐい去るのはなかなか難しいといった心境が書かれたものもあった。

 少子化の原因は、経済的な側面に加え、社会規範やライフスタイルの変化などもあって、複合的である。そうした中で、新型コロナウイルスにまつわる不安だけを解消すれば足りるというわけではないものの、このウイルスへの対応で巨額の予算を投下している状況下、妊娠・出産に関連する幅広い情報の整理・提供を国・地方が充実させるための予算上の余力は、十分に備わっているはずだろう。

 人口減・少子高齢化は、将来の経済的繁栄の基礎になる部分を確実に損なう、極めてネガティブな事象である。出産適齢期とされる女性の絶対数減少など日本の人口構成から考えて、少子化対策はもはや手遅れの感が強い上に、海外からの人材・観光客受け入れという打開策も新型コロナウイルスの感染拡大でブロックされてしまっている。だがそれでもなお、政府としてできることは極力やっておくべきではないだろうか。

引用元:
コロナで現実味「出生数80万割れショック」(日経ビジネス)