九州大学は2020年12月21日、「生後12か月の赤ちゃんも『自分の顔』を認識している」とする研究成果を発表した。顔刺激を視聴する実験調査で、赤ちゃんは「自分の顔」「他の乳児の顔」「合成した顔」を区別し、自分や他者の顔を合成顔より選好して長く見たという。

九州大学は2020年12月21日、「生後12か月の赤ちゃんも『自分の顔』を認識している」とする研究成果を発表した。顔刺激を視聴する実験調査で、赤ちゃんは「自分の顔」「他の乳児の顔」「合成した顔」を区別し、自分や他者の顔を合成顔より選好して長く見たという。

 自己認知発達の重要な指標とされてきた自己鏡映像認知の研究では、鏡映像に対する自己指向性の反応の成立は1歳半から2歳とされ、この時期以前の赤ちゃんがどこまで「自分の顔」を認識しているのかは不明だった。

 九州大学大学院人間環境学研究院の橋彌和秀准教授と同学府博士後期課程の新田博司日本学術振興会特別研究員は、「九州大学赤ちゃん研究員」に登録している生後12か月の赤ちゃん24人と保護者の協力で自己顔実験を実施。赤ちゃんには、保護者の膝の上に座ってもらい、画面に提示される顔刺激を視聴してもらった。赤ちゃんの視線は、視線計測装置によって計測し、見ている時間や反応を調べた。

 画面には、(1)自分の顔、(2)他の乳児の顔、(3)自分の顔50%・他の乳児の顔50%の合成顔のうち、(1)と(2)、(2)と(3)、(1)と(3)の3ペアに分けて左右に提示した。顔刺激を見ている時間に差があった場合、赤ちゃんはそれらの顔を区別していると考えられるという。

 注視時間計測の結果、赤ちゃんは「自分の顔」と「他の乳児の顔」という2つのオリジナルの顔をより長く注視しており、「自他50%合成顔」を「自分の顔」や「他の乳児の顔」と見分けていることがわかった。

 ただ、この結果だけでは「合成顔が“不自然”だったので反応が異なった」という可能性が排除できないことから、(4)(5)他の2人の乳児の顔、(6)他の乳児2人の顔50%ずつの合成顔を提示する比較実験を同じ24人の乳児を対象に実施。その結果、顔刺激(4)(5)(6)に対する注視時間に差が見られなかったため、最初の実験の結果が「自分の顔」認識に関わるものであることが示された。

 保護者に対しては、参加した赤ちゃんが日頃どのくらいの頻度、どのような場面で自分の顔をみるかについて回答してもらい、すべての赤ちゃんが少なくとも1日に1回以上は鏡や携帯の写真により、自分の正面顔を見る経験があることを確認した。

 自分の顔と他者の顔を用いた従来の研究では、赤ちゃんの月齢や個人差によって研究間で結果が安定しにくいといった問題があったが、今回の研究では合成顔を用いることで、「生後12か月児が自己の顔表象を成立させている」可能性が明示できたという。

 研究グループでは、「この時点で乳児が『自分の顔だ』ということを理解しているのかどうかはわからないが、自分の顔を『特別な顔』として認識しているという今回の発見を手掛かりに、自己アイデンティティの発達的な起源について今後の研究展開が期待される」としている。

 今回の研究成果は、2020年12月14日付で、国際学術誌「Infant Behavior and Development」にオンライン掲載された。

引用元:
赤ちゃんも「自分の顔」を認識…九州大学が研究成果(リセマム)