性にまつわるテーマを正面から扱った入門書や漫画の出版が相次ぎ、ドラマも制作されている。埼玉県産婦人科医会が「性教育委員会」を設立するなど、学習指導要領に従った「性教育」の枠を超える取り組みも始まろうとしている。背景を探った。【山越峰一郎】

 リアルに学べる性教育ドラマとして注目を集めるのが、インターネット放送局「ABEMA(アベマ)」が制作し配信中の「17.3aboutasex」。人気モデルが演じる女子高校生3人を主人公に、性の多様性と理解に焦点を当てたストーリーが展開される。アベマを運営するサイバーエージェントによると、配信サイトに書き込まれるコメント数が同局のオリジナルドラマでは過去最多で、10代だけでなく親世代の視聴も多いという。

 医療監修者としてドラマに携わった埼玉医大病院産婦人科の高橋幸子医師は「中高生にとっても、保護者にとっても今まさに直面している問題だ」と強調する。ドラマには、性的少数者は「異常者」ではない▽性感染症は簡単になり得る▽健康のためにも低用量ピルが必要――など、科学的知識を反映させた。

 2020年は、これまで年に数冊だった関連書籍が、入門書「おうち性教育はじめます」(KADOKAWA)、コミックエッセー「赤ちゃんはどこからくるの? 親子で学ぶはじめての性教育」(幻冬舎)、漫画「先生で○○しちゃいけません!」(小学館)など、一気に十数冊出版された。

 高橋さんもドラマ監修のほか、入門書「サッコ先生と! からだこころ研究所――小学生と考える『性ってなに?』」(リトルモア)を11月に出版。「私たちが子供のために使える本がない」と実感した女性編集者からの依頼で執筆したといい、思春期にさしかかる小学4年の男女に向けて、ポジティブな語り口で解説する。妊娠出産や第2次性徴の仕組み、性的多様性のほか、水着で隠れる部分と唇を「プライベートゾーン」として守ることの大切さなどが盛り込まれている。高橋さんは「保護者にも性教育は難しくないと分かる」と話している。

 一方、学校授業の枠内で実施される性教育は、学習指導要領により、性交に触れず避妊や性感染症を教えることが求められる。行きすぎた性教育は性的好奇心を喚起するという考え方によるもので、東京都では03年、知的障害児への性教育が「不適切な指導」として学校長が懲戒処分され(13年に裁量権の乱用を認定する判決が最高裁で確定)、性教育は具体性を伴わない内容になっていた。

 これに対し、高橋さんは、性教育が徹底された国ほど性交開始年齢が遅くなる傾向にあると指摘する。東京都の15〜19歳の人工妊娠中絶率は03年、1000人あたり8・5人と少なく、都道府県別で低い順から6位だった。しかし、全国平均が11・9人(03年)から5・0人(16年)へ半減する流れに取り残され、16年は6・7人で全国42位に転落した。埼玉は03年が11・1人(18位)、16年が3・0人(2位)だった。

 県内では、熊谷、志木、八潮、草加の各市の中学校全校で、性教育の一環として外部講師を招いた講演が行われている。川越市は全中学校に加え、21年度から全小学校にも予算化される見通しだ。高橋さんは「15〜19歳の合計特殊出生率も県の数字は全国平均より低く、望まぬ妊娠が減っていることがみて取れる。外部講師の講演が行われている市はさらに低い」と話す。

 県産婦人科医会は、各地で医師や助産師が自主的に行っていた性教育講演を県内全域で行えるよう、6月に性教育委員会を設立し医師10人が参加。21年度から中学校で講演を始めるべく、高橋さんを中心にスライドや説明の準備を進めている。

 性教育の拡充について、高田直芳県教育長は11月27日の定例記者会見で「(浦和第一女子高などの)校長時代に助産師を招いた性教育の講演会をした」としつつ、県立高校や市町村教委への予算的支援は「厳しい」との認識を示した。

 高橋さんは「先進国での性教育は性的同意など人権教育だ。途上国では避妊など貧困対策になっている。性を学ぶことは自分らしく生きる権利を学ぶことだが、日本は途上国にも及ばない。講演料は必要ないので外部講師による性教育の仕組みを県内に作りたい」と意欲を示している。

引用元:
埼玉で「性教育委」設立、中高生に科学的な知識を ドラマや関連書籍も続々(毎日新聞)