新型コロナウイルス感染症の影響については、感染者数や死亡者数の日々の推移に目が向けられがちです。一方で、将来的な人口の推移を左右する出生数への影響も出始めています。厚生労働省の発表によると、5月以降、全国の妊娠届が減少しています。少子化がさらに加速する恐れもあります。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也さんが「コロナ禍と出生数」について考えます。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇前年比11.4%の減少

 新型コロナの流行は、妊娠・出産を考えるカップルに影響をもたらしている。厚生労働省は、全国の妊娠数の実態を把握するために緊急調査を行った。

 通常、医療機関で妊娠の診断を受けた女性は、市区町村の窓口で母子手帳を受け取る際、妊娠届を提出する。調査では、全国の自治体が1〜7月に受理した妊娠届の件数を集計し、これを前年までと比較している。

 調査によると、1〜7月の妊娠届の合計件数は51万3850件で、前年同期に比べて5.1%減、一昨年の同期に比べて8.7%減だった。月別に見ると、5月以降の減少が顕著だ。前年の同じ月に比べて、5月は17.1%減、6月は5.4%減、7月は10.9%減だ。5〜7月の3カ月では、前年比11.4%の大きな減少となった。

 妊娠届は、妊娠11週以内に提出されるケースが多い。国内で感染が広まり始めた3月ごろから、影響が出ていたことがうかがえる。

 ◇感染リスクの回避や経済的な要因

 妊娠届が減少した原因として「外出自粛で単に届け出を控えているだけ」という見方もある。しかし、前年比11%超の大きな減少は、それだけでは説明がつかない。

 まず、病院で受診することの感染リスクだ。病理学的には、妊娠中に新型コロナに感染した場合、母子にどのような影響があるかがまだわかっていない。投与可能な薬が制限される懸念などから、妊娠に慎重になる人が増えたと考えられる。

 また、長距離移動が困難となっていた緊急事態宣言の発令時期には、妊婦が実家近くの医療機関で「里帰り出産できない」といった声があがっていた。こうしたことも、妊娠をためらわせた一因だろう。

 さらに、社会全体で経済活動が停滞して、非正規雇用者を中心に雇用不安が広まった影響があるとの見方もある。妊娠・出産・育児にかかる費用を考えたときに、子どもをもつ余裕がないと考えるカップルが増えた可能性がある。

 近年、日本では出生数が年々減少しており、少子化が進んでいる。2019年の出生数は、86万5234人で、1899年の統計開始後初めて90万人を割り込んだ。20年もこの傾向が続いている。

 また、8月以降も前年比10%以上の妊娠届の減少が続くことになれば、21年の出生数は70万人台にまで、減少してしまうことが予想される。日本の少子化はさらに加速することになる。

 ◇欧米でもためらい

 妊娠・出産をためらう動きは、感染が拡大している欧米各国でもみられる。

 イタリアの研究者グループは3〜4月、妊娠の意向を問うアンケート調査を実施した。英・仏・独・伊・スペインの5カ国で、今年1月時点で年内に妊娠したいと考えている18〜34歳の1473人の回答を集計している。

 同調査によると、妊娠をあきらめると回答した割合は最も低いドイツが14%、最も高いイタリアが37%だった。延期すると回答した割合は最も低いイタリアが38%、最も高い英国が58%にのぼった。

 また、米国では、シンクタンク「ブルッキングス研究所」などが6月、コロナ禍によって21年の出生数が1割減少する、という予測を示した。この減少率は、1918年のスペイン風邪のときの落ち込み(12.5%減)に匹敵するという。

 こうしてみると、ワクチン開発を含めた新型コロナの防止策は、目先の経済活動の再開だけではなく、長期的な少子化対策としての意味合いも持っているといえるだろう。世界中で、社会の活力を持続させていくためにも、感染拡大の早期終息が期待される。

引用元:
コロナ禍で妊娠届11%減「出生数」来年は70万人台か(毎日新聞)