昨今、インターネット上で子供を望む女性に対し、精子を提供する男性がいるという。SNS上に自らの身体的特徴や学歴などのプロフィールを公開し、自分の精子提供をアピールする男性がいるのだ。さらには、提供を受ける側が、精子提供者の年齢、血液型、学歴などを選ぶことができるマッチングサイトも存在している。

 実は第三者から精子提供を受けて妊娠するという方法は、長く行われてきた。AID(非配偶者間人工授精)と呼ばれるもので、日本では1948年に初めて実施されている。

「日本産科婦人科学会の見解では、提供を受ける側は、法律的に婚姻している夫婦であることを示すため、医療機関へ戸籍謄本を提出することが望ましいとされています。つまり、既婚者でないとAIDは受けられないのです」(医療関係者)

 インターネットを介した精子提供は、医療機関を通さないもので、つまり認められたものではない。一方で、取り締まる法律もない。“パートナーは必要ないが、シングルマザーで子供を産みたい”“同性婚で出産したい”という人たちが、あくまで自己責任の上で“強行”しているものだという。
提供の方法は主に2つある

 こうしたSNSやマッチングサイトを通した精子の提供には問題もあるという。

 精子提供には主に2つの方法があり、1つ目は「シリンジ法」だ。カップなどの容器に入れた精液を受け取り、その場でシリンジという注射器のような専用器具を使って、自分の腟内に入れる。シリンジは使い捨てで、ドラッグストアなどで購入できる。

 もう1つは「タイミング法」だ。これは実際に性行為を行って精子提供を受けるもので、女性には心のハードルが高い。しかも、提供目的ではなく性行為を求める男性が紛れているという声ある。

 帝塚山大学やクリニックで講義を行う才村眞理氏はこう指摘する。

「医療機関を通じた精子提供では、提供者がHIVやB型肝炎、梅毒などの感染症にかかっていないか、二等親以内に重篤な遺伝性疾患を持っている人がいないか徹底的に調査します。

 さらに、リスクを下げるために6か月間、冷凍保存し長期の検査を経た精子を使用します。SNSやマッチングサイトを通じた精子提供はチェックが不充分でリスクが高い。安易に利用するべきではありません」

 医療機関でのAID(非配偶者間人工授精)が望ましいというが、年々、AIDを実施する医療機関は減っており、その理由に“出自を知る権利”があげられる。

「慶應義塾大学病院では、精子提供ドナーになる際に『子供が自分の出自を知りたいとなった場合、精子提供者の情報を開示する可能性がある』という告知を開始しました。現在の法律では、精子提供をした子供から認知や財産分与を求められる可能性があるため、ドナーが激減。AIDを受けたい人の新規受け入れを停止せざるを得なくなりました」(医療関係者)

 マッチングサイトを通じて精子提供を受け、シングルマザーで第1子を出産した女性はこう語る。

「自分の選んだ方法を、すべての人が認めてくれるとは思っていません。でも、どうしても血のつながった子供が欲しかった。精子提供で産んだ子なんて、と否定する人もいますが、生まれてきたわが子を見たときに、この決断は間違いではなかったと確信しました。もしかすると、私の子供は一生、遺伝上の父親を知ることができないかもしれません。でも、その分、愛情を注いで育てています」

 子供を持ちたいと願う多くの人が、安全に出産をするため、そしてすべての子供が幸せに生きるため、法制度の拡充が望まれている。

※女性セブン2020年10月29日

引用元:
医療機関での精子提供ドナーが激減 出自を知る権利が一因(NEWS ポストセブン)