妊婦不安「阿蘇で産めない」 郡市の分娩病院ゼロに 助産師不足、採算も厳しく 
2020/9/29 10:03 (JST)9/29 10:28 (JST)updated
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阿蘇温泉病院産婦人科の荒尾慎治医師。10月から分娩を休止するため「しばらく赤ちゃんを抱っこできなくなる」と寂しそうに語った=阿蘇市
 「阿蘇で赤ちゃんを産めなくなる」−。阿蘇郡市唯一の産婦人科を持つ民間の阿蘇温泉病院(熊本県阿蘇市内牧)が10月から分娩[ぶんべん]への対応を一時休止することになり、妊婦や子育て世代に不安が広がっている。常勤助産師の不足が理由で、同病院は「早期再開を目指す」としているが、先行きは厳しい。

 温泉病院は12の診療科を持つ地域の中核病院。2007年に小国公立病院の分娩機能を集約し、阿蘇郡市で唯一、出産ができる病院となっていた。


 10月下旬に第2子を出産予定だった松永仁美さん(29)=阿蘇市狩尾=は8月上旬、分娩休止を告げられた。「自宅から近くて安心していたのに、戸惑いしかなかった」。9月から菊陽町の病院に車で約1時間かけて通っているが、1歳8カ月の長男の子育て中でもあり不安は尽きない。

 阿蘇市小里で飲食店を営む大倉美和さん(35)は妊娠5カ月。菊陽町の病院に転院したが「自営業や農業は産休や育休が取れず、地元で産めないと困る」。子ども2人を阿蘇温泉病院で産んだ南小国町満願寺の日野智子さん(36)は「第3子を持つ選択肢が遠のいてしまった。赤ちゃんを産める環境がなくなれば、若い世帯や子どもがますます減っていく」と心配する。

 産婦人科自体は残し、妊婦健診や産後のケアは継続する。横山芳樹院長(68)は「助産師が確保できればすぐにでも分娩を再開したいが、自力では厳しい」と話す。

 同病院の常勤助産師は必要数5人に対し、分娩休止を決めた6月末時点で3人。夜勤に対応できるのは1人だけで負担が集中していた。昨年から派遣助産師3人を3カ月交代で雇用していたが、産婦人科の荒尾慎治医師(55)は「医療はチームワーク。安心安全な分娩をするには常勤が好ましい」と言う。

 経営悪化も休止の判断に影響した。同病院の分娩の“採算ライン”は年間100〜130人だが、今年の見込みは82人にとどまった。少子化に加え、新型コロナウイルスの影響で里帰り出産が減少した。荒尾医師は「医療は地域の重要なインフラだが、産科をはじめ採算が厳しい診療科は自治体や国の支援がないと維持できない。社会全体の問題として考えてほしい」と語る。

 県医療政策課によると、県内で分娩ができる医療機関は44施設。少子化や産科医の高齢化などを背景に、10年前に比べ11施設減った。周産期医療圏で阿蘇は熊本市と菊池、宇城・上益城と共に「熊本中央圏域」に組み込まれているが、同圏域27施設のうち18施設が熊本市に集中するなど地域的な偏りも課題となっている。

 県内の助産師は18年12月末時点で468人。10年前より約130人増えたが、県助産師会の坂梨京子会長(熊本大大学院准教授)は「全体的に人手不足の状態で、特に熊本都市圏以外は深刻だ」と言う。

 県は数年前から温泉病院の相談を受け、助産師の就職あっせんに取り組んでいた。同課は「養成機関に直接働き掛けるなどして常勤助産師を確保し、再開につなげたい」とする。坂梨会長は「母親が産前産後を通じて育児相談ができる助産師が身近にいることが大事だ。県や地元自治体に早急な対応を求めたい」と話している。(東誉晃、豊田宏美)




引用元:
妊婦不安「阿蘇で産めない」 郡市の分娩病院ゼロに 助産師不足、採算も厳しく(熊本日日新聞)