鎌倉市医師会(山口泰会長)は9月2日、運営する産科診療所「ティアラかまくら」(小町)を来年5月末で閉院する、と同院のホームページで発表した。市内の産科病床不足解消を目的に2009年2月に開設された同院。しかし、市内の出生数そのものが減少していることに加えて、競合する産科施設が増えたことなどから分娩数が当初の想定に届かず、苦しい経営を強いられてきた。そのため、運営に対する補助金を支出してきた鎌倉市と医師会が事業継続に関する協議を続けていた。

 ティアラかまくらが開設された当時(08年度)、市内で分娩が可能な施設は1カ所26床しかなく、市内での出産率も約31%に止まっていた。

 そのため市と医師会がプロジェクトを立ち上げ、全国的にも珍しい「医師会立」の産科診療所として同院の運営が始まった。

 助産師が妊娠中、出産直後から子育てまでサポートするのが特徴で、母乳育児にも力を入れてきたほか、同院で出産した母親らによるサークルがイベントを定期的に開催し、育児に関する悩みを共有してきた。

 また昨年には出産前後の母親の心身の回復を目指す産後ケア事業もスタートするなど、市内における出産・育児に関する拠点としての役割を果たしてきた。これまでに誕生した新しい命は、2500を超える。

分娩数目標届かず

 しかし開設以来、苦しい経営が続いてきた。

 医師会が当初想定していた同院での年間分娩数は360件。しかし実際は10年度の322件をピークに減少が続き、昨年度は126件と想定の3分の1近くにまで落ち込んでいた。

 背景にあるのが少子化。09年度には1286件だった市内の出生数は、19年度には961にまで減少。さらに市内や周辺地域に産科施設の新設・増床が続いたことも追い打ちをかけた。

 17年度には大幅な経費削減を盛り込んだ経営改善策に取り組んだものの、分娩数の減少が続いたことなどもあり「赤字幅」は増加。当初は年間5千万円前後で運営可能と考えていた鎌倉市による運営補助金は、19年度は約1億2600万円にまで増加していた。

 こうした状況を受けて鎌倉市と医師会では、今年初めから事業継続に関する協議を続けてきた。7月には閉院の方向性が決定したという。

分娩来年3月末まで

 同院での分娩の取り扱いは来年3月31日が予定日の人まで(出産後の2週間健診、1カ月健診は同院で受診可能)。5月31日で閉院する。

 医師会の山口会長は「大変残念だが、市から多大な補助金を受けながら経営する現状を踏まえると、やむを得ないと判断した。妊婦さんを第一に考え、不安なく出産を迎えられるようにしていく。また職員の今後に関するサポート、貸借している建物や備品などの対処についてもしっかりと責任を果たしていきたい」と話した。

引用元:
「ティアラかまくら」閉院へ 分娩数減少で経営苦しく(タウンニュース)