胃カメラや大腸内視鏡検査の「無痛検査」が普及してきました。鎮静剤を注射して、意識がぼんやりした状態で内視鏡を入れるこの技術。従来のような苦痛を感じにくく、中には眠ってしまう人もいるほど、検査への恐怖心を低くしてくれました。

 近年、乳がん検診でも「無痛検査」の導入が進んでいます。

「無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス法)」と呼ばれるこの検査は、鎮静剤は使いません。女性の乳房の形態を活用した、新しい形の検査法です。

どんな検査法なのでしょう。

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痛いのを我慢して検査しても、腫瘍が見づらいことが……

 従来の乳がん検診といえば、マンモグラフィーが主流だった。マンモグラフィーというと、「痛い」というイメージを持つ女性は少なくない。

 マンモグラフィーは、乳房専用のエックス線(レントゲン)撮影装置。圧迫板で乳房を上下、左右から圧し潰してエックス線を当てるのだが、正確な画像を得るには乳房をなるべく薄くして撮影する必要があり、そのため乳房を強く圧迫する。この時に痛みを伴うのだ。特に胸が小さい人ほど痛みは増す傾向があり、体格の小さな日本人には不利といえる。

 しかも、授乳期に乳汁を分泌する「乳腺」が多い人は、腫瘍があっても乳腺の陰に隠れてしまうのでエックス線画像では腫瘍が見づらくなることがある。日本人女性は「高濃度乳房」といって、乳腺が発達している人の割合が高く、ここがネックとなっていた。

 これを補完する検査法として乳腺超音波(エコー)検査がある。超音波検査は肝臓や胆のう、膵臓、あるいは頸動脈などの血管の状態を診る検査で経験した人もいると思うが、超音波を当てて、跳ね返ってくる音波を画像化して観察する検査法だ。こちらは痛みや放射線被ばくのリスクはないものの、医師や技師の経験や技術の差によって判定の精度も左右される。

 そうしたことを背景に開発された「ドゥイブス法」とは、どのような検査法なのか。

押し潰すこともなく、“うつ伏せ”のなるだけ

開発者である東海大学工学部医用生体工学科教授で放射線科医の高原太郎医師は、こう語る。

「MRI(磁気共鳴画像診断装置)を使って行う全身を対象としたがん検査を元に開発された検査法です。特別な調整法でMRIの性能を高め、がんの特徴である“高い細胞密度”を特定することで、従来は難しかった乳房内のがんを見つけ出すことができるようになりました」

最大の特徴は、従来のマンモグラフィーのような“痛み”を感じなくて済むようになった点。被験者は、 うつ伏せになって撮影するだけなので、苦痛なく検査を受けることができる。

 MRIやCTの撮影をするとき、被験者は検査台の上に“仰向け”の状態で横たわるのが一般的だ。しかし、仰向けで寝ると柔らかい乳房が安定しないので、正確な撮影ができない。そこでドゥイブス法では、“うつ伏せ”になって撮影をする。検査台には専用の器具が置かれてあり、そこには二つの穴が開いている。被験者はその穴に乳房を入れるようにしてうつ伏せになり、そのままMRIに入っていくのだ。

仰向けだと安定しない乳房も、うつ伏せで、しかも台に空いた穴から下垂させた状態で静止すれば、撮影は可能だ。これにより、乳房の腫瘍を、痛みを感じることなく画像検査で見つけ出すことが可能になった。

じつはMRIを使った乳がん検査法は以前から存在した。しかしそれは、マンモグラフィーや乳房超音波検査で「要再検査」となり、再検査でもさらにがんの存在が疑われた時に行われる“奥の手”だったのだ。がんが強く疑われるケースでの検査なので、造影剤を使ったMRI撮影となる。当然そこにはそれなりのリスクを伴うことになるのだが、ドゥイブス法では造影剤は使わない。つまり“奥の手”の検査の安全性を高めて、初期検査に利用しようと考えたわけだ。
“恥ずかしさ”も感じることなく撮影が可能

「エックス線ではないので放射線被ばくの危険性はないし、造影剤も使わないので安全性は高い。何より乳腺の多い高濃度乳房でも鮮明な画像が得られるので、“見落とし”のリスクが大幅に下がります」

 ドゥイブス法の利点はそれだけではない。

「乳がん検診を受けない人を対象としたアンケート調査があります。受診しない理由の第1位は「忙しいから」、2位は「痛いから」、そして3位は「(裸を)見られることが恥ずかしいから」という答えでした。従来の検査法はいずれも、被験者は上半身は服を脱がなければ受けられないものでしたが、ドゥイブス法はTシャツを着たままで撮影が可能です。“痛み”だけでなく“恥ずかしさ”も感じることなく撮影が可能なので、乳がん検診のハードルを大幅に下げることができるのです」

 過去に乳がんの手術や豊胸手術でインプラント(シリコン製の人工物)を入れている人は「圧迫」による損傷の危険性があるのでマンモグラフィーはできないとされてきたが、ドゥイブス法なら撮影可能だ。

“良いこと尽くし”の検査だけど

 いいことだらけの検査法に見えるが、弱点もある。

 現状ではこの検査法を導入している検査施設が全国で22カ所と少なく、検査費用も割高だ。ただ、得られた画像を精査する“読影”には専門的な技術が必要で、現状ではそのマンパワーが不足しているため、診断まで10日程度の時間を要する。これらの問題解決が、今後の課題として残る。

 30代から急増する乳がんは、若い人こそ注意しなければならない病気です。

「痛さ」を恐れて乳がん検診を避けていた女性には、「乳がん検診にも“無痛検査”がある」ということだけでも、知っておいてもらえれば、と思います。

※※ご興味ある医療機関様はユー・ディー(06-6264-5511)までご連絡ください。


引用元:
“胸を圧し潰す”乳がん検査は痛すぎる……服も着たまま出来る「ドゥイブス法」を知っていますか?(文春オンライン)