母乳育児の素晴らしさはよく知られている。母乳は必要不可欠な栄養素を含んでおり、乳児の免疫力を高め、心身の発育を後押ししてくれる。母乳による育児は、環境の側面や経済的な面でも、社会に広く恩恵をもたらしうる。にもかかわらず、米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国の新生児のうち、生後6か月まで母乳だけで育てられている割合はわずか25%だ。
新生児の世話をする親や保育者にとって、乳児に栄養を与えて健康を維持するために欠かせないのが乳児用粉ミルクだ。
乳児用粉ミルクの市場規模は470億ドルにのぼる。この市場では、ダノン(Danone)、ネスレ(Nestlé:傘下のガーバー[GERBER]が粉ミルクを生産)、アボット(Abbott:商品名はシミラック[SIMILAC])、ミード・ジョンソン(Mead Johnson:商品名はエンファミル[ENFAMIL])などのメーカーが、できるだけ母乳に近い粉ミルクを生産しようと取り組んでいる。
とはいえ、それは決して容易ではない。母乳には、乳糖(ラクトース)や脂質に加え、数百種類もの成分が含まれている。その内容は母親によってさまざまであるうえに、授乳ごとでも変化するのだ。
そうした成分のひとつがラクトフェリンだ。ラクトフェリンは、母乳に含まれるたんぱく質のなかで2番目に多い。抗菌作用と抗ウイルス作用を持ち、新生児が免疫機能を作る際にとりわけ重要だ。さらに、母乳に含まれる鉄分の吸収を助ける働きも持つ。
ところが、乳児用粉ミルクにラクトフェリンを配合するのはそう簡単ではない。多くの粉ミルクには、代わりにウシ(牛)ラクトフェリンが配合されているが、理想的だとは言えない。ウシラクトフェリンは牛乳から抽出されるのだが、その精製工程はお金がかかるうえに、ほかの栄養素を除去してしまうからだ。
マサチューセッツ州ボストンのバイオテック企業が密集する地域にある合成生物企業コナジェン(Conagen)は2020年3月、母乳に含まれるラクトフェリンにきわめて近いラクトフェリンを生産するプロセスを開発したと発表した。同社の研究者らは、バイオ技術を用いたラクトフェリンの発酵プロセスを開発。そのプロセスは、パンやチーズ、ワインの発酵過程と同様であり、より質の高いラクトフェリンが生産できるという。
そのため、コナジェンのラクトフェリンは、ほかの代替成分と比べると、その効能が母乳にきわめて似ている。バイオ技術で処理されたこの成分によって、乳児用粉ミルクはかつてないほど母乳に近づくかもしれない。
乳児用粉ミルク市場の勢力地図を塗り替える可能性
コナジェンのラクトフェリンは、乳児用の栄養素として以外にも応用がきく。世界では、人口のおよそ30%が鉄分不足だ。コナジェンのラクトフェリンは、子どもから大人まで幅広い年齢層の鉄分吸収を助ける栄養補助食品にもなりうる。
また、ラクトフェリンには骨髄の成長を促す働きもあるので、コナジェンが開発した新しいラクトフェリンの分子構造は、製薬業界が関心を寄せる別分野の発展を後押しする可能性もある。
コナジェンの微生物プラットフォームは、製造という視点から見て、乳児用粉ミルク市場の勢力地図を塗り替える可能性をも秘めている。コナジェンの技術は、コスト効率に優れ、持続可能だ。規模の拡大と同時に、ダウンストリームの精製過程を簡素化することもできる。
コナジェンの科学革新責任者リチーク・ニレイ・ムカジー(Richik Nilay Mukherjee)博士は、「私たちのプラットフォームを推進する主な原動力は、スピード、コスト、質だ」と話す。「私たちは自然からインスピレーションを得ている。それが、迅速で、持続可能で、コスト競争力のある方法で科学を活用するという私たちのビジョンの原動力となっている」
コナジェンのラクトフェリンは、粉ミルクへの配合用として、米食品医薬品局(FDA)の承認を待っている。
引用元:
バイオ技術が生んだ、母乳成分にきわめて近い乳児用粉ミルク(Forbes)