あなたは自分が生まれたときの体重(出生体重)を知っているだろうか。実は、出生体重と生活習慣病の発症には密接な関係があるという。小さく生まれた人はそうでない人に比べ、生活習慣病になるリスクが高いというのだ。日本は先進国の中では、小さく生まれる赤ちゃんの割合が突出して高い。その背景にあるのが、若い女性の「やせ」だ。20代女性で医学的な意味でのやせ(低体重)に該当しているのは約2割。この割合も先進国の中では最も高い。

「女性のやせは、次世代の健康に大きな影響を及ぼす。今のままでは国の将来さえも揺るがしかねない」と、産婦人科医で福島県立医科大学の福岡秀興特任教授は警鐘を鳴らす。医学的なエビデンスも相次いでいるが、その主軸となっているのが「DOHaD(ドーハッド)学説(生活習慣病胎児期発症起源説)」だ。この先の日本を背負う次世代の健康を守るために、今すぐ取り組むべき4つの提言とは──。

20代女性の5人に1人が栄養不良の日本。先進国で最も多い

 まずはデータを紹介しよう。国民健康・栄養調査によると、BMI*18.5未満の「やせ」に該当する成人女性は、全年代平均で約1割、20代女性に限ると約2割を占める(図1)。成人女性の10人に1人、20代女性では5人に1人がやせているわけで、そんな状態がこの20年以上ずっと続いている。国際的に見ても、日本人女性のやせは顕著だ。成人女性のやせの割合を国際比較した研究(2016)によると、先進国の中では最上位にあり、ナイジェリアと同じ(図2)。アジア諸国と比較するとシンガポール、タイ、中国、韓国などより高く、インド、バングラデシュ、ベトナムなどよりは低いという結果だった。

では、なぜそんなにやせているのか。理由は簡単で、食べる量が少ないからだ。20代女性の1日の推定エネルギー必要量は2000kcal(食事摂取基準2020年版)だが、実際の平均エネルギー摂取量は1643kcal(2018年)。2002年以降は、ほぼ1600kcal台で推移している。たとえば8〜9歳の女児の推定エネルギー必要量が1700kcal。それをも下回っているのだから、20代女性の栄養不足がいかに深刻かわかるだろう。

 問題はさらにある。やせた女性が妊娠出産に至ると、母体から十分な栄養を受けられないため、生まれる赤ちゃんも小さくなりやすいのだ。日本では、2500g未満で生まれる「低出生体重児」が1975年以降増え始め、2005年から現在まで全体の約1割に達する状態が続いている(図3)。これも先進国の中では断トツに多く、OECD諸国の中でも最上位に位置する。「栄養事情のよくない国ならいざ知らず、先進国であるはずの日本でこれだけ若い女性のやせと低出生体重児が多いのは、まさに異常事態。国際的にも極めて特異な状況と見られている」と福岡教授は話す。

出生時の体重は、妊娠前の母体の体格に影響されることがわかっている。母体のBMIが小さいほど新生児の出生体重も小さく、大きいほど出生体重も大きくなるのだ。日本では女性のやせ願望が強く、不必要なダイエットをしている人も少なくない。また「肥満は不健康だが、やせているのは大丈夫」などと思い込んでいる人も多いようだ。「最近はいわゆる“授かり婚”(できちゃった婚)が増えているせいもあって、やせた状態のままで妊娠する女性が多い。妊娠後も、平均摂取カロリーだけを見ても必要量を大幅に下回っており、低栄養状態が続いている。こういった状況が低出生体重児増加の大きな原因になっている」と福岡教授は話す。

 「小さく産んで大きく育てる」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。この言葉のイメージだと、出生体重はむしろ抑えておいて、生まれてから大きく育てていくことがよいことなのでは? そんなふうに捉えがちだが、それは大変な誤解だと福岡教授は言う。「もともとこの言葉は、小さな赤ちゃんを産んだお母さんを慰めるためのものだった。それが妊娠中毒症などの合併症を防ぐには妊娠中はあまり体重を増やしてはならないという指導が以前は一部で行われていため、『小さく産むことがよいこと』のように誤解されて社会に広がった。確かに、妊娠中に極端に太りすぎると妊娠合併症のリスクは上がる。かといって母体の体重増加が不十分だと、胎児は低栄養にさらされて小さく生まれることになる。しかも、その健康への影響は将来にわたって及ぶことになる」。

小さく生まれた子は、糖尿病や高血圧のリスクが上がる

 では、小さく生まれるとどんな影響が生じるのか。これまでの研究により、将来、生活習慣病になりやすいことがわかっている。下のグラフは1980〜2016年までに各国で行われた49の研究をメタ解析した結果だが、2型糖尿病を発症するリスクは2500g未満を筆頭に出生体重が小さい人ほど高かった(図4)。2型糖尿病以外にも心血管系疾患(心筋梗塞など)や高血圧でも同様の相関が認められた。

 他にも脂質異常症やメタボリック症候群、慢性腎臓病(CKD)、非アルコール性脂肪肝、脳梗塞、骨粗鬆症などの発症リスクが上がるという多くの報告がある。女性の場合は、妊娠した際に妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群(以前は妊娠中毒症と呼ばれていた)などの合併症を起こしやすいこともわかっている(下表)。また身体的な病気だけでなく、学力低下との関係も指摘されているという。

低栄養の母体環境が「栄養をため込みやすい」体質を作る

 もちろん、小さく生まれたら全員がそうなるというわけではなく、発症する確率が高くなるということだ。福岡教授は「生活習慣病などになりやすい“体質”を持って生まれることになる」として、次のように続ける。

 「母体がやせて低栄養状態にあると、胎児も低栄養下の子宮内で育つことになる。いわば胎内環境が飢餓状態にある。すると、その環境に適応する形で遺伝子の働きを調節する変化が生じ、少ない栄養でも生き抜くことができる体質が形成される。ところが、生まれた後では過剰な栄養や運動不足、ストレスなど現代社会特有の生活が待ち受けている。少ない栄養で生きられる体質があるがゆえに、その影響をより強く受けることになり、結果として生活習慣病を発症しやすくなる」

 このように病気になりやすい体質を持って生まれたところに、望ましくない環境が加わることで、生活習慣病は発症する。つまり病気はこの2段階を経て発症するというのが、「DOHaD学説(Developmental Origins of Health and Disease=ドーハッド/生活習慣病胎児期発症起源説)」だ。1980年代後半に英国のデビッド・バーカー博士が、出生体重が小さいと成人になってから心筋梗塞のリスクが高くなるという疫学調査結果を報告。子宮内で胎児が低栄養状態にさらされるとエネルギーをため込みやすい体質に変化し、生活習慣病の発症がプログラムされることになるという「胎児プログラミング仮説」を提唱し、それがDOHaD学説へと発展した。福岡教授は日本におけるDOHaD学説の第一人者で、「日本DOHaD学会」の代表幹事も務める。

生活習慣病になりやすい体質は3世代先まで続く

 「厄介なのは、そういった体質が1代限りで終わらず、世代を超えて受け継がれること。これまでの研究によると、3世代先まで続くことが判明している。また、この体質は、第1段階として受精から2週間くらいの間に作られることもわかっている。この期間は妊娠にはまだ気づかない時期。つまり、妊娠に気づいた時には最初の重要な変化はすでに終了しているということだ。そして、これに次いで妊娠中の子宮内環境の影響も受けながら体質が作られていくことになる。だからこそ、妊娠する前からしっかり栄養を摂って、適正な体格を維持しておくことが重要になる」と福岡教授は強調する。

 気づいたときにはすでに遅い……少々暗澹とした気持ちになるが、もちろん対処法はある。福岡教授は、「自身の健康と次世代の健康の両方を守るためにも、次の4つをぜひ実践してほしい」と提言する。

1) 妊娠出産を望む女性は「やせない体」づくりを!
やせて栄養が足りない状態は、当の女性にさまざまな不調を招く。疲れやすく、仕事などの生産性も落ちがち。また月経が止まったり、妊娠しにくくなったりすることも。骨が弱くなって、将来、骨粗鬆症になったり、寝たきりなったりするリスクも高まる。やせの代償は大きい。

 では、どのくらいの体格が理想的だろうか。「BMIだと22を中心にして、その前後の20〜23くらいが、最も健康で妊娠しやすく、かつ胎児にとってもよい体格といえる。妊娠出産を考えている女性はこのくらいをキープするよう、日頃からしっかり栄養を摂ってほしい」と福岡教授は言う。

2) 妊娠中も十分に栄養を摂る
 食事摂取基準(2020年版)では、20代女性の1日の推定エネルギー必要量は2000kcalで、さらに妊娠中は初期で50kcal、中期で250kcal、後期で450kcalを上乗せする必要があるとされる。しかし、実際には十分量を摂れていない人が多い。「なかには妊娠していない時の必要量にも満たない例があり、妊婦の低栄養は深刻な問題だ。妊娠中は初期、中期、末期と段階に応じて必要十分な栄養をバランスよく摂ることが何より重要。もしも、やせたままで妊娠した場合は、通常体重の人以上に栄養をしっかり摂り、妊娠中に12kg程度は体重を増やすようにしてほしい」(福岡教授)

3) 小さく生まれたら、スキンシップと肥満予防を
 たとえ小さく生まれたとしても、将来の生活習慣病の発症リスクを減らすことは可能だと福岡教授は助言する。「生まれた直後から積極的なスキンシップを心がけてほしい。スキンシップをとると赤ちゃんの大脳の海馬ではストレスに対する抵抗性が高まって、糖尿病の発症リスク低下も期待できる。可能なら母乳哺育を。スキンシップも密になるので、より効果的だ」。

 また、出生後は急激に太らないことも重要だという。少ない栄養で生きられる体質があるところに過剰な栄養を与えてしまうと肥満を招き、生活習慣病につながる。まさに「小さく産んで大きく育てる」の落とし穴に入ってしまうからだ。

 「年齢ごとの標準的な成長曲線チャートが作られているので、それに発育状態を記入していくと、太りすぎかやせすぎかがよくわかる。発育チャートは日本小児内分泌学会のHPで紹介されているので、参考に。親御さんは、できればお子さんが高校生になるくらいまで、この発育チャートに記録し、肥満にならないよう気をつけてあげてほしい。このチャートを付けることで、肥満だけでなく低身長ややせも早く見つけることができる。また、小さいころから運動習慣を身につけておくことも大切」と福岡教授。

 ところで、出生時の適正体重とはどのくらいだろうか。福岡教授は次のように話す。「日本での適正体重についての調査は行われていないが、1970年代の平均出生体重は約3200gで、現在は約3000g。これまでの研究報告などを勘案すると、3000〜3800gが望ましい出生体重といえるだろう。もし2700g以下ならば、親御さんは上に述べた点に注意しながら育児をしてほしい。また妊娠糖尿病を合併していた場合は、お子さんの将来の健康管理について主治医の先生とよく相談を。対応策はあるので、決して不安を抱く必要はありません」

4) 出生体重を知って、それに応じた健康管理を
 自分が生まれたときの体重は何gだったか──。「それを知っておくと、一生の健康管理ができる。ぜひ親御さんに聞いたり、母子手帳を見たりして確認を」と福岡教授は呼びかける。実は、男性の方が小さく生まれた影響を受けやすいという。生活習慣病は女性より男性に多いが、そこには性差も関係しているらしい。「出生体重は女性だけの問題ではなく、男性の問題でもある。もし出生時の体重が標準よりも小さかった場合は、病気になりやすい体質を持っているということ。それを事前に知っておけば、生活習慣に気をつけたり、健康診断を受けたりして予防に努めることもできる」。健康管理は生まれたときから切れ目なく、が理想的ということだ。

SDGs達成のために、母子の2つの飢餓問題への対策を

 今、世界中が取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)の中には「飢餓をなくそう」という項目がある。これは貧困国の問題で、日本などの先進国とは関係ないと思われがちだが、福岡教授は日本の女性のやせと生まれる子の低体重は、まさに飢餓問題そのものだと指摘する。

 「母子の2つの飢餓が同時に進行し、さらに世代を超えて問題が先送りされ、次世代の健康と福祉まで脅かしている。生活習慣病のさらなる増加は医療費の増大も招き、このままでは国の将来も危ぶまれる。すでにイギリスやニュージーランド、シンガポールなどでは、国家レベルで低出生体重児を減らす対策を講じ、成果が出始めている。先進国の中で最もやせた女性と低出生体重児の多い日本が手をこまねいていいはずがない。持続可能な健康と社会のためにも、今すぐ、本気でこの問題に取り組むべきです」


引用元:
若い女性の「やせ対策」が急務なワケ(新公民連携最前線)