街に人が増えて活気が戻ってきましたが、すべてが以前と同じようにはいきません。私も7月になってから、自粛以来初めてお昼に友人と外食したのですが、入店前の体温チェックや消毒、仕切りのプラスチック板など、「ああ、ニューノーマル(新しい常態)とはこういうことなんだなぁ」と今更ながら実感しました。これからも生活の様々なことが大きく変わるのでしょう。
それでも「今」、以前と変わらずに行動するしかないことは多数あります。妊活をしている人にとっては、いうまでもなく妊娠のための行動はすべて「今しかない」、しかも「できるだけ早く」すべきことなのです。
1人目はすぐ恵まれたのに、2人目不妊で治療
埼玉県在住のTさんは現在37歳。2人目不妊で治療中です。来年第1子が小学生になるので、「気持ちがすごくあせって、1回でもチャンスを逃したくない」といいます。
27歳で結婚する前、夫が転勤になっていたことから、「すぐには子どものことは考えてなかった」そうです。しかし幸い、夫が転勤から戻ってすぐ、第1子に恵まれました。その後、育児と仕事の両立が大変で、しばらく避妊をしていました。でも、「そろそろ次の子どもを」と避妊をやめても、今度はなぜかなかなか妊娠しません。
「今度もすぐだと思っていました。妊娠しないのは、おかしいなって。でも1人は産んでいるから不妊じゃないよね、と思っていたので……」。今、早く専門の病院へいけばよかったと悔やんでいます。
最初に受診したのは近所の産婦人科。「1人産んでらっしゃるから大丈夫でしょう。まだ若いし、様子を見てみたら」と言われ、安心してタイミング法の妊娠を目指したそうです。しかし半年たっても妊娠の兆候はなし。
夫の男性不妊が発覚
「上の子と年が離れるのも気になるから、早いほうがいいと思って、別の病院に行きました」。今度は職場近くの、不妊も扱う婦人科クリニックでした。そこで初めて不妊の検査を受けたところ、Tさんは特に異常なし。しかし、「旦那さんのほうに精子減少症という軽い男性不妊があるっていわれて……」と、そこで男性不妊が発覚したことを話してくれました。
「1人目は何の苦労もなかったので、まさか問題があるなんて……。しかも、原因が私じゃなく、旦那さんで、すごくショックでしたね」。Tさんは、結果を夫に話すことも 躊ちゅう躇ちょ したといいます。
最近では、不妊治療の説明会や初診時には「夫婦そろって」と言われることも増えてきており、週末になると、待合室にはカップルが多くみられます。しかし、Tさんが行ったところはそうではなく、一人で病院に行っていたため、「いくら軽いとはいえ、男性不妊といわれたらショックを受けるだろうなと思うと、すごく悩んでしまった」と言います。検査結果を伝えると予想通り、夫は非常にショックを受けたようでしたが、治療を前向きにとらえてくれたそうです。ここから、Tさん夫婦の不妊治療が始まりました。
人工授精を繰り返し、高額な顕微授精へ
「旦那さまの男性不妊があるから、自然妊娠は難しいでしょう。人工授精をやってみましょうと言われました。治療をすればすぐできると思ったし、金額を聞いたら覚悟していたほどじゃなかったので、やりますと即答して帰ってきました」。しかし、夫は治療に積極的ではなかったと言います。「人工っていう言葉に旦那さんが抵抗を示して……。そこまでしなくても、1人いるからいいじゃんって。でも私は絶対、兄弟をと思っていたから、ちょっと言い合いになって。結局、説得して治療したのですが、人工授精をしても妊娠しなくて……。1回で妊娠すると思っていたので、それもショックでした」とTさん。結局、人工授精を6回受けても妊娠せず、不妊専門クリニックに転院したそうです。
「体外受精を勧められましたが、1回に70万円ほどといわれ、さすがに即答できませんでした」。夫と相談して、1回だけやってみようということになり、顕微授精にチャレンジしたそうです。
妊娠検査の結果は、残念ながら陰性。「人生でこんなに落ち込むことがあるのか、というぐらい泣きました。仕事と育児との両立も大変な中、通院も周りに気を使って調整して頑張ったのに、結局、妊娠できなくて。兄弟を産んであげられなくて申し訳ないという気持ちで、いたたまれなかった。妊婦さんを見ると、うらやましくてつらくて、しばらくうつのようになりました」と語るTさんの声は小さく、消え入りそうでした。
Tさんはその後、2回の顕微授精を受けたものの、やはり妊娠しません。不育症も疑われ、その検査のため、別の病院へも通いました。検査の結果、不育症ではないだろうと言われたのですが、また別の病院を紹介されました。
「何件病院を変えればいいのか。その都度やり直しになる検査もあってお金がかかるし、気が遠くなりました。このころには、もう金銭感覚がマヒしてしまっていたと思います。治療費の総額を計算するのも怖くてやってない。これから、子どもの教育費とかもかかってくるし、この治療に使ってしまった分のお金があったら、もっと何でも買ってあげられるし、いろんなところに連れて行ってあげられたのに……。ごめんねって、罪悪感でいっぱいです」
治療がコロナで一時ストップ 夫と再開巡りけんか
そしてTさん夫妻は、「これ以上続けていても、いつまでと区切れないから」と、次の治療を最後にしようと話し合っていたそうです。そんな時期に、4月1日の 日本生殖医学会からのコロナに関する声明 が出ました。「病院は不要不急じゃないから大丈夫だろうと思っていたのに、私が通っているクリニックからメールが届いて、しばらく新規の治療は行わないとなってしまったんです。最後の1回で絶対頑張ろうと体調も整えて準備していたから、動転してしまって……」。その後、日本中が自粛体制となり、治療できないまま、2か月以上が過ぎてしまいました。
すでに学会からは5月18日、 治療再開の通知 も出ているのですが、Tさんの夫は「二人とも今テレワークなのに、わざわざ都内まで治療で通うのはリスクだ」と治療再開には反対で、けんかになってしまったそうです。「せっかくここまで頑張ってきたから、今あきらめたくない。何とか夫を説得します」と語ってくれました。
コロナ巡る不安に各学会が見解
Tさんのケースのように、病院選びに苦労をして転院を繰り返す方、また、コロナ渦の中、不妊治療のために通院に不安を抱えている方は多く、そうした悩みもよくきかれます。
ここでお伝えできる情報として、日本生殖医学会からは7月10日に「 新型コロナウイルス感染症(COVID−19)に対する日本生殖医学会からの通知〜海外の動向について〜 」が出されています。また、日本受精着床学会からは「 新型コロナウイルス感染症(COVID−19)に関するWebアンケート調査報告(速報) 」も出ており、クリニックが実施している感染症対策などもわかりますので、ぜひご参照いただければと思います。
また、NPO法人Fineでは、不安を抱える患者の気持ちを集めて不妊治療の環境改善に役立てるべく、「 withコロナ時代の妊活中の不安に関するアンケート 」と、「 どうする? 教えて! 病院選びのポイントアンケート 2020 」も行っていますので、よろしければ、声をお寄せください。
ニューノーマル時代であっても、患者が望む治療を続けられる環境が早く整うよう、患者も医療施設もこれまで以上の協力が必要となっていくでしょう。(松本亜樹子 NPO法人Fine=ファイン=理事長)
引用元:
不妊治療「次が最後」と決めたがコロナで中断 夫は再開反対(yomiDr.)