米カンザス大学のLiang Xu氏らが、最先端技術である「ラボオンチップ(lab-on-a-chip)」により、乳がんの検出やその転移を早期の段階で発見できる可能性を、「Science Translational Medicine」6月10日オンライン版に報告した。

 ラボオンチップとは、小さなチップ上に微細な装置を組み込み、その中で反応、分離、分析を行う最先端の技術だ。Xu氏らは今回、マトリックスメタロプロテアーゼ14(MMP14)を分析できるチャネル(流路)を一つ備え付けた、EV-CLUEと呼ばれるチップを使用した。MMP14は腫瘍から放出される酵素の一つで、がんの進行と転移に関連することが示唆されている。EV-CLUEは、顕微鏡のスライドガラス程度の大きさのもので、ナノテクノロジーを使って微量の血液を8つの微細なチャネルに流し込み、がんのさまざまなマーカーを測定する。スキャンに必要な血液は、わずか2μLほどだ。1滴の血液が50μL前後であることを考えると、いかに少量で済むかが分かる。

 MMP14に照準を合わせたこの初期段階の研究では、EV-CLUEにより早期乳がんまたは転移性乳がんを、トレーニング用のグループ(30人)で96.7%、その後の検証用のグループ(70人)では92.9%の精度で検出できた。

 研究チームによると、乳がんは、超早期段階である非浸潤性乳管がん(DCIS)の段階で発見できれば、5年生存率は99%と極めて高い。しかし、DCISが進行してリンパ節に転移すると5年生存率は86%に下がり、遠隔転移が起こった場合は27%にまで低下する。Xu氏は「極めて精度の高いこの技術を用いれば、がんの転移の初期兆候を検出することができる。がんの転移の早期発見は乳がん患者の死亡率を低下させるためには重要だ」と話す。

問題は、乳がんが原発部位から転移してしまうと、がん細胞が身体のどこか分からない場所に隠れてしまう可能性があることだ。しかし、Xu氏によると、この新たな技術により、こうした隠れた腫瘍を見つけ出せる可能性もあるという。

 米国がん協会(ACS)のチーフメディカル&サイエンティフィックオフィサーのWilliam Cance氏は、「この技術は、血液などの体液を利用してがんを発見する“リキッドバイオプシー”を開発しようとする試みの一つだ」と話す。腫瘍はさまざまな種類の物質を血液中に放出しており、これらの物質を見つけ出すことによって、進行する前の段階でがんを検出できる可能性がある。

 EV-CLUEに関する今回の研究結果について、Cance氏は「可能性を秘めていることが立証された」とし、「ほかの新規技術と同様、多くの患者で検証を行う必要がある」と述べている。そして、「今後、厳密な検証を経て精度が確認されれば、マンモグラフィに代わる乳がんのスクリーニングツールとして、このようなリキッドバイオプシーが実施されるようになる可能性がある」との見方を示している。

 EV-CLUEは3Dプリンターで作成された。Xu氏は、手頃な価格で作成でき、幅広く供給することも可能であるとして、「マンモグラフィと比べてかなり低コストで導入できる」と強調している。

 EV-CLUEは幅広いがん種での利用が可能とされ、Xu氏によると、既に、肺がんの検出におけるその有用性を検証する初期段階の研究が始まっているという。

引用元:
「ラボオンチップ」で乳がんを早期発見(BeyondHealth)