生殖補助技術が進展し、児は「授かるもの」から「つくるもの」へと認識が変わってきているという見方もある。そうした中、日本産科婦人科学会では医学的適応のある患者に対して受精卵などの凍結保存を容認しているが、健康な女性においても未受精卵子を凍結保存し希望するタイミングでの妊娠に備える動きがある。こうした状況に対し、東京都立墨東病院産婦人科部長の久具宏司氏は警鐘を鳴らしている。同学会の第72回学術講演会(4月23日〜5月11日ウェブ開催)で、懸念点を解説した。
卵子を凍結保存しても生児を得られないケースが多数
同学会では、悪性腫瘍の治療などで卵巣機能が低下し、妊孕性が失われることが予測される女性の未受精卵子、受精卵、卵巣組織を凍結保存することは、保険適用外ながら医学的適応があるとの見解を示している。乳がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病といった悪性腫瘍に対する抗がん薬治療や放射線治療などを受ける患者が対象と考えられている。
しかし、健康であっても現時点ではパートナーがいない、あるいは仕事に注力したいという女性が、将来の妊娠に備えて自身の未受精卵子を凍結保存するケースが増えつつある。同学会は推奨していないが、女性にとっては<1>予定外の妊娠によるキャリアの中断を避けられる<2>将来、早発卵巣機能不全などを発症しても妊娠が期待できる<3>加齢による卵子の染色体異常を回避できる―などのメリットが考えられる。
しかし、<1>健康な女性が採卵などに伴う合併症のリスクを負う<2>卵子を凍結保存しても妊娠に至るとは限らない<3>妊娠してもリスクの高い高年齢妊娠・出産につながる恐れがある<4>卵子の凍結保存によって生まれた児におけるリスクは不明―といった懸念もある。また、海外の報告では、パートナーがいないなどの理由で未受精卵子を凍結保存しても活用しなかったケースも多く、年齢が高くなるほど生児を得る確率が低くなることが示されている( Hum Reprod 2017; 32: 853−859 )。
女性が生殖活動と社会活動を両立できる社会に
こうした点を踏まえ、久具氏は「自己免疫疾患の治療や卵巣の良性疾患手術によっても卵巣機能は低下することがあり、卵子凍結保存に関する医学的適応の定義は曖昧だ」と指摘し、緊急性の有無や卵巣機能低下の不可逆性の有無で検討した方が良いと提言する。
一方で、「健康な女性が未受精卵子を凍結保存しても、妊娠の準備をするというスタート地点に立ったにすぎず、必ずしも日本全体の出生数が増えるわけではない」と付言。
同氏は、卵子の凍結保存を闇雲に推進するのではなく、行政などの取り組みによって女性が生殖活動と社会活動を両立できる仕組みを整えるとともに、医療者が女性の妊孕性と年齢の関連について、女性だけでなく男性にも啓発する必要があると強調した。(須藤陽子)
引用元:
卵子凍結の「落とし穴」 未受精卵子の凍結保存、妊娠の実現性やリスクの考慮が必要(ヨミドクター)