新型コロナウイルスの感染予防のため、産科医院が妊婦の安全を守る取り組みに懸命だ。国などは入院中の面会や夫などの立ち会い出産、里帰り出産を控えるよう呼び掛けるが、妊娠出産した女性からは「家族にそばにいてほしい」と不安も。産科医も葛藤を抱えながら向き合っている。(佐藤健介)

 「自分や赤ちゃんがコロナにかからないか…」

 神戸市の産科医院で出産を控えた女性(29)は、心配が頭から離れなかった。

 メーカーの生産現場で働き、テレワークができない夫は面会を控えた。切迫早産で絶対安静となり、不安は募るばかりだった。

 4月下旬に長女を無事に出産したものの、女性は「初めての出産で、家族にも会えない。心細くて仕方がなかった」と語る。

 医院側も神経をとがらせる。神戸市須磨区の益子(ますこ)産婦人科医院では、入院中の妊婦が寝静まった後、看護師らが病室、分娩(ぶんべん)室、廊下、シャワールームなどに消毒液を噴霧し、除菌シートで丁寧に拭き取る。新たに加わった当直業務だ。

 「感染者が出ればもちろん、風評だけでも、つぶれてしまうだろう」と益子和久院長(71)。産科不足が叫ばれる中、母子の命を守るとりでが、コロナ禍でさらに減ることを恐れる。

 厚生労働省や産科関係学会は「妊婦の感染や重症化、胎児の異常や死産、流産のリスクが高いとの報告はない」と説明している。ただ、益子院長は「妊娠中は横隔膜が肺を圧迫するなど呼吸器に負担がかかり、免疫力も落ちる」と警戒する。

 こうした注意を払いつつ、産む環境はなるべく「通常」に近づけているという。お産の呼吸法などを学ぶ教室は頻度を増やし、毎回の定員を半数以下にして続けている。

 里帰り出産も、2週間の経過観察で異常がなければ受け入れている。家族の面会や出産立ち会いの自粛も、同院ではお願いにとどめる。益子院長は「葛藤はあるが、できる限り家族で一緒にお産の感動を分かち合えるような工夫をしたい」と話す。

■里帰り出産受け入れ施設公表■

 生まれ故郷で赤ちゃんを産む「里帰り出産」について、国や産科医らの団体は自粛が望ましいとの見解を示している。

 緊急事態宣言発令を受け、日本産科婦人科学会などは「現在お住まいの地域での出産をご考慮いただきたい」とする文書を出し、産婦人科医には居住地域で代わりの分娩(ぶんべん)施設を紹介するよう要請。厚生労働省は自治体に対し、里帰り出産を断念した妊婦に心のケアなどの支援を求めている。

 兵庫県産科婦人科学会は、里帰り出産を受け入れる県内医療機関の一覧をホームページで公表。県境を越えて移動してから2週間以上経過しても発熱や味覚・嗅覚異常といった症状がないことなどを条件とする。

 一方、姫路市は市内医療機関で出産を控えた妊婦とパートナーらを対象にPCR検査を近く始める。陰性ならば、各医院が制限する家族らの立ち会いや面会にも柔軟に対応できる可能性も示す。

引用元:
「コロナ感染怖い」「心細い」妊婦の安心、安全守る産科医懸命(神戸新聞)