専門家「前向きな準備期間に」

 新型コロナウイルスの感染拡大で、不妊治療に取り組む人に不安が広がっている。ウイルス感染が妊婦や胎児に及ぼす影響が不明で、専門医から治療の延期を考えるように求める声が上がっているためだ。不妊治療は加齢による妊娠率の低下や高齢出産のリスクがあり、「時間との闘い」ともいわれる。終息の兆しが見えない中、妊活を続けるかどうか、苦渋の選択を迫られる人もいる。

 「待てる人には、できるだけ治療を待ってもらっています」

 不妊治療専門の「IVF詠田クリニック」(福岡市中央区)の詠田由美院長が診療状況をこう説明した。

 クリニックでは毎月、凍結した受精卵を子宮に戻す胚移植を100件ほど行ってきた。ところが、4月は10件ほど。患者には妊娠時にウイルスに感染した場合の懸念を説明し、治療の延期を勧めている。詠田院長は「受精卵を凍結保存すれば、後でも出産は可能だ。今はいったん終息を待ってほしい」と話す。

 不妊治療の専門医でつくる日本生殖医学会(東京)は4月1日、新型コロナウイルスに関する声明を発表した。それによると、妊婦が感染すれば重症化の可能性も指摘されており、試験的に投与される治療薬は妊婦に使えないネックもある。終息か、妊婦に使える薬が開発されるまで、治療の延期を選択肢として示すように医師に勧める。

 一方、加齢による妊娠率の低下や流産率の上昇、高齢出産に伴う母体への負担増など、年月の経過で生じるリスクを不安に思う人も多い。妊娠を望む人にとっては、簡単に延期を受け入れられない葛藤がある。

 「不妊治療をやめた方がいいかも」「いつまで休めばいいのか。治療をストップするのも怖い」−。

 不妊に悩む人を支援するNPO法人「ファイン」(東京)には声明の発表後、数十件の相談が寄せられた。声明は治療の延期を患者に考えてもらう内容だが、治療そのものの断念を検討する人もいるという。

 松本亜樹子理事長は「不妊治療はただでさえ精神的負担が大きいのに、いつまで延期すればいいか、先が見えないのが一番つらい。夫婦でも治療方針への意見が割れ、余計な言い争いになるケースもある。不安や悩みがあれば、抱え込まず専門家に相談してほしい」と呼び掛ける。

 年間約1800件の相談を受ける福岡市不妊専門相談センターの上野恭子センター長は「延期のデメリットばかりを悲観的にとらえると、心身に悪影響が出る」と指摘する。

 治療を続ける人は、なかなか妊娠できないつらさや、治療に対する一喜一憂が重なって不安に陥りがちだ。上野さんは延期している間、夫婦で今後の方針をしっかりと話し合い、食生活や生活習慣を改善することを勧める。「妊娠までの準備期間が増えたと思って、前向きに過ごしてほしい」と語った。

引用元:
不妊治療、続けた方がいいの? コロナ禍で苦悩する患者たち(西日本新聞)