「もう何十年も前のことですけどね、私自身、2人の子供を育てました。当たり前ですが、子育てというものは大変なんです。仕事だって息抜きなしでは無理がきます。だったら子育てだって、たまに息抜きをしたっていいじゃないですか」

 こう語るのは、群馬県高崎市の富岡賢治市長だ。文部省(現文部科学省)官僚を経て、2011年4月に初当選。現在3期目で、やり手市長として知られるが、子育ての話題になると、柔和な父親の表情を見せた。

 こうした富岡市長の思いを実現したのが、全国でも類を見ない施策として話題となった「子育てSOSサービス」だ。

 「育児に追われて家事ができない」「仕事と家事で子供と遊んであげられない」「悩みを聞いてほしい」。こんな要望に電話一本で応えてくれるサービスを2019年4月からスタートさせた。

 市内に居住している妊娠中や未就学児がいる家庭であれば、事前登録などは必要ない。専用ダイヤルに電話(受付午前8時半〜午後6時、利用時間は午前8時〜午後8時)するだけで、同市社会福祉協議会から子育てや家事経験の豊富なヘルパーが1時間以内に派遣される。しかも1時間250円という格安だ。

 保護者の在宅が条件だが、食事の買い物や調理、片付けのほか、洗濯や清掃、乳児の入浴手伝い、おむつ替えなど、まさに家事全般をサポート。サービスを受けている間に子供と遊んだり、じっくり子供の話を聞いてあげたり、使い方はそれぞれ幅広い。

 利用が多いのはやはり夕方以降。仕事から帰宅した際、家事ができる日もあれば、疲れてできないときもある。そんなときに「ちょっと手伝ってくれる人がいたら」というニーズが多いようだ。

 食事の支度サポートは、料理は「おまかせ」のほか、希望の料理があれば味付けなども詳しく要望を聞き、臨機応変に対応してもらえる。こうしたサポートの合間に、本来は相談をするつもりがなかった悩みを吐露する利用者もいるという。

 ささいな会話から深刻な問題を引き出すケースもあるといい、近年社会問題化している「孤立」防止にも一役買っている。

 それだけに、昨年4月のサービス開始以降の利用件数は1846件(昨年12月末現在)にものぼり、1日平均7件と利用者は増加傾向にある。利用者の口コミで広がりつつあるようだ。

高崎市にはそもそも「産後ママヘルプ」という事業を展開していたが、事前登録や予約が必須だったこともあり、それらを解消した上で迅速に派遣される新サービスとして「子育てSOS」が生まれたという。

 すでに言い尽くされた感があるが、いまや少子高齢化は日本が越えなければならない最重要課題だ。ライフスタイルの変化で、夫婦共働きは増え、核家族化や地域住民同士の関係の希薄化など、子育て環境は様変わりしている。

 その行き着く先に、社会問題となっている子供への虐待がある。シングルマザーが悩みを一人で抱え込んだり、仕事との両立に行きづまったり、要因の多くは無理をした結果であることが多い。

だからこそ、「子育てSOS」のキャッチフレーズは「がんばり過ぎない子育てのススメ」だ。また、虐待問題の根本には、人間関係の希薄化によって相談相手がいないばかりに、悲惨な結末になるといったケースもあり、「子育てSOS」はこうした問題解決にもつながるといえるだろう。

 ただ、これだけで十分と考えないのが、富岡市長だ。「子育てSOS」に先駆け、「高崎市子育てなんでもセンター」が2017年4月にオープンした。市有地を活用して民間事業者が建設し、福祉と住居機能が一体となったビル「オアシス高崎」2階に拠点を置き、さまざまな子育てサービスを展開している。

 託児ルームはもちろん、週末も利用可能な「交流・プレイルーム」のほか、子育て相談も受け付ける。託児ルームの利用については目的を問わない。「がんばり過ぎない」という実践として、保護者が映画やコンサート、美容院、買い物などを楽しみたいといった理由でも問題なく利用できる。

 「保護者が遊び目的で託児所を利用することに罪悪感がある人は多い。でも我慢ばかりでは息が詰まって悪循環になる、そこを解消したいというのが富岡市長の思いなんです」と同センターの小石さち子所長は目的を問わない意義を強調する。

 さらにこのセンターの特色は「就労相談」だ。同様の施設に「ハローワーク」の端末を設置しているケースはあるが、ここではハローワークやNPO法人の担当者が直接相談に応じるサービスも提供している。

 富岡市長は「かつては近所づきあいや、地域のお年寄りが何かと手伝ってくれたものでした。でも、現代はそうはいきません。だからこそ、行政がサポートしなきゃいけない。子育ての悩みが解消されれば好循環が生まれるんです。ヘルパーの人数を増やすなど、これからももっと充実させていきたいですね」と力説する。


引用元:
地方行政の常識を覆す、高崎市「子育て支援」はどれほど異例なのか(ironna)