医療崩壊寸前のイタリア
イタリアのコロナ感染が止まらない。
当初、集団感染が認められた韓国の感染者数と死者数を追い越し、イタリアでは、医師や看護婦の感染者も多く、感染のために急逝している医師たちもいる。
医療関係者たちが感染すると、働ける他の者たちが長時間労働を強要され、十分に患者をケアできなくなる。
病院の部屋が足りない場合は、手術室や廊下にまで簡易ベッドを置くという劣悪な状態で、人工呼吸器をつけられた患者が横たわる映像は、まさに野戦病院並みだ。
イタリアでは、すでに引退していた医者や医療関係者2万人を再雇用して救急医療に投入したり、教育課程後期にある医大生や看護婦学校の学生たちを早期卒業させたりして患者のケアに対応している。
また、中国から防御服や呼吸器などを携えた医療スタッフの援軍を一部受け入れて病院の稼働率を超える患者に対応するために、見本市会場の建物やホテルも利用する方向だという。
イタリアに学ぶこと
アメリカの疾病予防管理センター(CDC)をモデルに創設された欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、現在、欧州の感染者数はイギリスを含めて51,771人、死亡者は2346人(3月16日時点)。
ヨーロッパの感染者のおよそ半分がイタリアに集中しており、これまでに1809人が亡くなった。医療崩壊寸前のイタリアでは1日に死亡者数が368人になる日もあり、悲惨な状態となっている。
なぜイタリアはこのような事態になってしまったのだろうか。
「最初の時期に感染源を見逃したため検疫が遅れた」「事態が悪化してから対応しているうちにさらに感染者が急増して悪循環化した」など、理由はいくつも考えられる。
なによりもはじめは「インフルエンザと変わらない」「80%が軽症なのだから大丈夫」「メディアが大げさに伝えている」と、外出を自粛せずに普段通りの生活を続け、危機感に欠けていたことも感染拡大の異常事態を招いたのではないか。
北イタリアの地図を見ると、ベルガモ、ブレシア、クレモナ、ミラノ、ロディーの順に、感染者数が多い。
ミラノ以外は典型的なイタリアの小都市で、平常時であれば地名も知られていないような街での感染者数の多さをみると、地域医療がいかに厳しい状況にあるかが想像できる。
イタリアは早期に感染者を確認し、隔離・検疫をするべき時期を逃したために感染者が急増した。
感染者を早期に隔離し、厳しい入国制限、検疫、隔離によって感染を広げない政策を徹底させた台湾やシンガポールとは正反対に、イタリアは感染者の増加を遅らせることに失敗したのだった。
なお、スペインやフランスでも感染者数が急増したことが判明し、ヨーロッパでは、イタリア、スペイン、フランスの順に、ラテン系の国々で、急激に感染が広まっている。
「社会的隔離」はどこまでできるのか
ドイツでも感染者が増え続ける状況に、メルケル首相は3月11日、「今の時点で、最大の目標は感染を遅くすること。そのためにはなるべく人と接触の機会を減らすべき」とコロナ感染について初めて発言した。事実上の緊急事態宣言である。
2月の謝肉祭(カーニバル)での大人数のパーティや冬のスキー休暇で北イタリアに滞在した帰国者たちがいたため、ドイツの感染者も急増している。
首都ベルリンでは特別の検査場を設け、地域医療と区分けしている。各地でドライブインの検査場も設置された。検査から結果が判明するには数日から1週間かかるのだが、週末だけでもドイツの感染者数は2000人台から5000人以上に激増した。そして感染者の数は週明けに6000人を超えた。
ドイツでも数日前まで「メディアが大げさに取り上げている」「またコロナのニュースか」「軽症がほとんどなのだから寝ているしかないではないか」などというのんきな雰囲気が漂っていた。
しかし、メルケル首相の「コロナ感染は長期にわたり60%から70%のドイツ人が感染する」という"鶴の一声"に、危機感が一挙に募り、大きなスポーツイベントが次々にキャンセルされ、学校や幼稚園、スポーツジムなどの一時閉鎖が発表された。
ソーシャルメディアでは「スーパーが閉店される」という偽ニュースが拡散されたため、スーパーでは保存がきく食品やトイレットペーパーなどの買い占めが進み、空となった棚が並んでいた。
すでに各国に入り込んでいた感染者の確認と隔離について、ヨーロッパ諸国は後手にまわっている。というのも、これまで多くの国でコロナ感染は自分たちには関係ない、アジアで蔓延している「他人事」と捉えがちであったからだ。
しかし、ヨーロッパにやってくる毎年の中国人観光客数を考えても、知らずのうちに感染者が入国していた可能性は高く、陸つづきで人の移動も簡単なヨーロッパで、ウイルスが広まらないはずがない。
せめてイタリアのように重篤な感染者数が急増して医療体制が崩壊の危機に直面しないよう、なだらかな増加の変化に対応できるようにする、そのためには他人との交流を我慢しなければならない。
外出を控えることで感染の機会を減らす一方で、感染学専門の研究者が情報を集め、研究を進められるよう「時間稼ぎ」で対処したいと、各国政府が次々に発表する「社会的隔離」は日に日に厳しくなっている。
オーストリア政府は、規制の基準も日を追うごとに厳しくなり、はじめはイベントや集会のキャンセルの基準は100人以上としたが、3月13日にはスーパー、銀行、薬局等など日常生活を続けるうえで最低限必要な店以外、閉店することを発表した。
そして15日には「集会の自由の権利」を一時的にはく奪するという策までとり、「五人以上で集まらないように」と呼びかけた。
チェコやポーランドなどはドイツヘの国境を次々に閉鎖し、ドイツはスイス、オーストリア、フランスなど5ヵ国との国境を閉鎖。国境を自由に行き来できるというシェンゲン条約は国家の緊急時には適用されないという条項を利用した措置から、事態がいかに深刻化しているかがわかる。
感染学者の推測……コロナウイルスは耐熱性?
では一体、コロナ感染はいつまで続くのだろうか。
多くの人は、「コロナウイルスは風邪やインフルエンザのように夏になったら弱まるだろう」と思いがちだ。しかし、感染学の専門家たちは違うシナリオを想定している。
ベルリンのシャリテー病院の感染学者、クリスチアン・ドロステン氏は、世界中の感染学者たちが随時、行っているデータをもとにしたシミュレーションで、「考えを改める必要に迫られた」という。
「暖かくなればインフルエンザのように消える」という期待に反して、「コロナウイルスはすぐには消滅しそうにない」というのだ。
「温度の上昇に弱いインフルエンザ」と「必ずしも熱に左右されないコロナウイルス」、そこがインフルエンザとコロナウイルスとの違いのひとつではないか、と専門家は指摘している。また、一人の感染者が2.5人、つまり3人に感染させるという感染の速さも問題で、致死率に関してはインフルエンザの約10倍である。
とはいえ、夏になれば日照時間も増え、ウイルス感染はやや停滞するのではないか、とドロステン氏はみている。
ただし「収束」はすぐに「終息」という意味ではない。北半球が夏になると、季節が逆転している南半球は冬になるので、引き続き感染は続く。
「夏に多少、収束しそうに見えても、おそらく秋に再び感染の波が来る。そのとき重篤者が増加することを想定し、7、8月の夏を効率的に使い、医療体制を整えることが欠かせない」とドロステン氏は強調する。
そして長期間にわたる感染で「ドイツ人の70%は感染する可能性があるだろう。これはホラーではない。多くの死者が出るにちがいない。だからこそ準備が必要だ」という。
ドロステン氏の予測では、約5000万人のドイツ人が感染することになる。大半が軽症あるいは無症として、致死率が1%としても約50万人が死亡するという計算になる。
ドロステン博士は、「致死率が高い高齢者、持病持ちのリスク・グループだけでなく、医療関係者が病気にならないよう、最善の防御策を練ることで、対処していかなければならない」と呼びかけている。
医療関係者が働き続ける環境を作るためにもすべての学校を閉鎖してしまっては、子供をあずける場所がなくなってしまう。そこでドイツ政府は、医療関係者や共働き家庭で自宅勤務が難しい人々のために地域ごとの託児所や幼稚園の運営を検討している。
それでも感染が急増したとき、医療はどう向き合うべきか。
感染が大多数に広まり、病院がフル稼働しているとき、呼吸器に対して重篤者数が多すぎる場合はどうするべきか。
ドイツ政府は緊急に1万個の呼吸器を民間企業から買い上げたというが、極限状態になれば戦場でのトリアージュ(患者の重症度や年齢に応じて治療の優先度を選別する)のように、医師たちは誰に呼吸器をつけ、誰に着けないか、選択に迫られるかもしれない。
そしてドロステン氏は、「自然界のことなので"いつまで"と言い切ることはできない。(コロナ感染との闘いは)短距離走というよりはマラソンになるだろう」という。
パニックに陥っても仕方がない。
ハーバード大学の感染学者、マーク・リプシッチ氏をはじめ、専門家たちは、かつてのスペイン風邪のように、「地球規模で感染が1、2年続いてウイルスが広まるあいだにワクチンの開発と臨床実験も進み、多くの人に免疫力がつくのではないか」という見方をしている。
引用元:
「医療崩壊」危機のイタリア…コロナ感染「長期化」という厳しい未来(Yahoo!JAPANニュース)