子どもがいない理由は人によって様々。例えば、「子どもはいらない」と思っている人と、欲しくても授かることができない人とでは、感じ方は違うことでしょう。

 今回は、子どもを“産まない”と“産めない”の違いを痛感した、ひとりの女性の胸の内を聞いてきました。

◆産めなくなって気づいた我が子への想い

 47歳の専業主婦、優子さんはアクティブな印象の女性。以前はアーティストとして芸能界で活動し、引退後はバイクの指導員をしていたそう。

 優子さんは、実家に出戻った妹が子育てに奮闘している姿を見ていたため、前々から「私は子どもはいらない」と思っていました。しかし、30歳の時、子宮筋腫になり、子宮を全摘出すると心境に変化が訪れました。「産まない」と「産めない」の間にある、見えない壁の高さに気づかされたと言います。

「正直、子宮を失うまでは『これで世間に子どもがいない言い訳ができる』と思い、清々しかった。でも、実際に子宮を失ってみると、辛い気持ちになりました。そこで気づいたんです。ああ、産まないのと、産めないのとでは違うんだなと。」

 さらに、優子さんは子どもを産めなくなったことが原因で、当時結婚していた男性と離婚することになってしまったのです。

◆「子どもを産まないから乳がんになった」と言われて…

 その後、優子さんは現在の夫・悟さんと出会い、再婚。悟さんは子どもが産めないことや離婚歴があることも受け入れてくれました。辛い経験をした分、幸せな今があってよかった。――そう胸をなでおろしたのも束の間……

「今、私は末期がんです。」

 聞けば、優子さんは乳がんを患っているのだそう。肺に転移した時は病巣切除するまで呼吸困難の症状がありましたが、今は微熱や倦怠感以外に主だった症状はないとのこと。しかし、子どもの頃から膠原病(こうげんびょう:関節リウマチなど、さまざまな臓器に炎症を起こす病気の総称)も患っているため、慢性的な全身疼痛(とうつう)とも闘っています。

 子宮筋腫になった時や乳がんが発覚した時、周囲からの無神経な言葉が優子さんを苦しめました。「子どもを産まないから病気になった」と言われた時には、心がボロボロに。出産経験のない女性は、出産経験のある女性と比較してホルモン受容体陽性の乳がん発症リスクが高いとされていますが、そういった背景を踏まえていたとしても、あまりにも心無い言葉です。

◆「子どもがいなくてよかったと思う瞬間もあります」

 現在は周囲から口を挟まれることがなくなったため、身勝手な言葉に傷つけられることはなくなりましたが、姪や甥の姿を見ると、将来を悲観してしまうのだそう。

「早くに子どもを産んでいたら、今頃は頼れる存在になっていたのだろうなと。将来のことを考えてしまい、心細くなります。」

 親の「頼りたい」という気持ちは子どものプレッシャーとなってしまうこともありますが、優子さんが言う“頼れる存在”とはおそらく老後の面倒を見てくれる人などではなく、ホッと安堵できる拠り所のような存在を指しているのではないでしょうか。

また、子どもを産まなかった選択に後悔を滲ませる一方で、子どもがいなくてよかったと思う瞬間もあると告白。

「私の患っているがんや膠原病は母親からの遺伝。だから、もし子どもを産んでいたら、その子に遺伝する可能性が高かった。その点では、子どもがいなくてよかったと思います。」

◆子猫のミルクボランティアで子育ての喜びを実感

「いま住んでいる分譲住宅は子育て世代が多くて話題も合わないので、浮いた存在になってしまって……。子どもの行事が主だったので、自治会も辞めました。」

 しかし、我が子を持てない=母親になれないというわけではありません。優子さんは現在、保健所に持ち込まれた子猫のミルクボランティア(赤ちゃん猫に数時間ごとにミルクを飲ませる)を行い、小さな命を懸命に育てています。

「自分が産んだ子でなくても、種が違っても子育ての喜びを実感できます。社会貢献にもなりますしね。」

 生後間もない子猫たちにとって、愛情をたくさん注いでくれ、おいしいミルクを飲ませてくれる優子さんは紛れもなく、大切なお母さん。

「女性は子どもを産む道具じゃない。子どもを産まないから、病気になるわけでもない。子どもがいない家庭を変わり者扱いしないでほしい。」

優子さんが口にする、叫びのような想いが多くの人に届くことを祈るばかりです。

―シリーズ「親としてのエピソード集」―

参考:一般社団法人日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン Q4. 妊娠・出産,授乳および月経歴と乳がんのリスクについて教えてください」

引用元:
子宮をなくし、“産まない私”から“産めない私”になってわかったこと(エキサイトニュース)