事故による傷害の問題について考える場合、1)事故が起こる前、2)事故によって傷害が起こったとき、3)傷害が起こった後、4)グリーフケア の四つの相に分けて考える必要があります。起こる前は「予防」、起こったときは「救命・救急処置」、起こった後は「治療、リハビリテーション」、そして関係者のグリーフケアです。この四つを合わせたものが「傷害対策」で、最も大切で経済的にもすぐれたアプローチは「予防」です。

傷害予防の「3つのE」

事故予防の重要性は誰もが口にしますが、すべての事故を防ぐことはできませんし、その必要もありません。事故予防において優先度が高い傷害とは、1)重症度が高く、後遺症を残す確率が高い傷害、2)発生頻度が高い傷害、3)増加している傷害、4)具体的な解決方法がある傷害 です。すなわち、医療機関を受診することが必要な傷害を予防する必要があるのです。

 「ほとんどの事故死は予防できる」と、WHO(世界保健機関)は指摘しています。傷害予防の基本として、3つの側面からのアプローチが重要であるとされています。1)製品・環境デザイン(Environment)、2)教育(Education)、3)法規制(Enforcement) の3つです (図1) 。英語の頭文字をとって3Eアプローチと呼ばれています。これらをうまく組み合わせることが重要です。

 「法規制」とは、重症度が高い傷害について社会ルールを変えることです。いったん法制化されると、その効果は明らかになりますが、いろいろな利害関係者がいるため調整に時間がかかり、法制化は難しい場合が多いのです。また、「教育」は、ほとんど費用もかからず、すぐにできることと思われがちですが、その効果を評価することは大変難しいものです。したがって、すぐに実行でき、効果の評価もしやすい「製品や環境の改善」を優先することが必要です。WHOも、製品や環境のデザインで解決できるものは、まず、それを実施することを優先する必要があると述べています。その上で、残った危険に関し、教育や運用のルールを作って対応していくことが原則です。

変えられるものを変える

 図1に効果のある傷害予防(3E)と効果のない傷害予防(3I)として整理しました。校長先生や管理者を処罰する(個人の責任にする:Individual)、実際には見守りで防止できない傷害を見守る(非科学的で無理な傷害予防:Impossible)、3Eに基づかない周知徹底や謝罪(その場しのぎ的対応:Instant)などは、傷害予防上は効果のないアプローチ(Ineffectiveなアプローチ)であり、頭文字をとって、ここでは3Iと呼んでいます。3Iは、筆者らのグループの造語です。効果のない傷害予防(3I)ではなく、効果のある傷害予防(3E)を採用することが大切です。

傷害予防の原則は、傷害が起こった状況を、「変えたいもの」「変えられないもの」「変えられるもの」の3つに分けて考えることです (図2) 。変えたいものは、重症度が高い傷害の発生数、傷害による死亡数などですが、これらは直接、変えることはできません。子どもの年齢、発達段階、天候、季節、時間などは傷害の予防を考えるときに重要な情報ですが、これらも変えることはできません。製品や環境、製品の配置などは、われわれが直接変えることができます。

 すなわち傷害予防とは、傷害に関わる要因の中から、「変えられるものを見つけ、変えられるものを変えることによって、変えたいものの発生頻度や重症度を変えること」なのです。

 以上、原則を示しましたが、具体的にどうしたらいいかわからないと思います。これからの連載で、これらの原則を基に、個々の事故や、関係する人の役割についてお話ししてみたいと思います。

安全な製品や環境 社会で整備

 10年前、自動運転の車が街中を走ることなど想像もできませんでしたが、今では実現しています。道路上の電光掲示板には「安全運転を心がけて」という表示がありましたが、自動運転であれば、そんな表示は必要ありません。

 子どもの事故も同じで、これまで「目を離すな」「注意しろ」などと完全無欠を求められ続けてきましたが、それは不可能です。これからは「過度に注意にたよらなくてもいい」「少しは目を離してもいい」くらいに安全な製品や環境を社会で整備していくことが必要です。そうしなければ、子どもの事故予防にはつながらないのです。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)


引用元:
子どもの事故を予防する「3E」とは…「目を離すな」「注意しろ」では守れない(読売新聞)