キャリアを形成していくうえで、子どもを産むタイミングは重要だ。だが、肉体的には早めの出産が理想的だとわかっていても、仕事との兼ね合いから見極めは難しい。AERA2020年2月17日号は、26歳での出産を選択したという婦人科医に意見を求めた。

緩急をつけた働き方を余儀なくされるのが、子育て期だ。

 加えて、出産のタイミングを見極める必要もある。年齢が上がるにつれて、受精卵の染色体の異常が起こりやすくなるため、妊娠しにくかったり、着床しても流産しやすくなるからだ。

 東京・浜松町の「浜松町ハマサイトクリニック」婦人科の吉形玲美(よしかたれみ)医師は、こうした35歳以上の高齢出産のリスクに関する認識が今やすっかり定着した、と実感している。

 来院する患者も、近年は「産むなら早く」と考える20〜30代が増えた。出産しやすい体づくりのため、禁煙したり、婦人科健診を定期的に受けたりする女性も目につくという。むしろ、気になるのは男性だ。

「男性は何歳になっても妊娠させる力(妊孕力=にんようりょく)があると考えられてきましたが、最近は男性も40代以降は妊孕力が低下するということが分かってきています。仕事が落ち着いたらいつか子どもを、と漠然と考えるのは、男女ともにお勧めできません」

 とはいえ、出産には肉体的な適齢期と社会的な適齢期がある。

「肉体的には20代半ばくらいの出産が理想です。けれども仕事によっては、理想通りにはいかないこともある。自分の置かれた環境で、ベターな出産タイミングを見極めることが必要です」

 吉形医師自身は26歳で出産。当時は大学病院勤務で出産のタイミングとして、研修医の期間が終わる26歳前後、専門医資格を取る30歳前後、医学博士を取得する35歳前後の三つがあった。その中で最も早い時期を選んだ。

 大学病院にスムーズに戻れるように、育休期間中も週2回、外来を担当。産後9カ月目で完全復帰し、月8回の当直もこなした。医師として経験を積んでいく期間と子育て期間が重なり目の回る忙しさだったが、現在、すでに子どもは手を離れ、仕事に存分に打ち込める。

一方、吉形医師の友人には人生経験を積み、金銭的な余裕もある40代になってから出産することを選択した人もいる。

「どのタイミングの出産がいいかは、カップルそれぞれ。ただし、出産を将来的に考えているなら、肉体的なリミットや妊娠しやすい体作りなど正しい知識を持っておくべきです」

 都内の外資系企業に勤める女性(37)は、前に勤めていた会社で1年働かないうちにリーマン・ショックを経験。「社員を半分にする。経験が浅い人から切っていく」と通知され、退職を迫られた。この体験から、出産後もポジションを失わないためには経験を積んで存在をアピールすることだと決意。いまの会社に転職した26歳のときから、終電までの残業もいとわずこなした。

 不妊治療の末、31歳で娘を出産した。ところが1年間の育休中に「専業主婦になってほしい」と望む夫との間に溝が生まれ、離婚。職場復帰とワンオペ育児がほぼ同時にスタートした。なんとか乗り越えられたのは、「捨てられるところは捨てる」「頼れることは頼る」と腹をくくったからだ。

 育休中から積極的に同僚と連絡を取り、復帰後も時には昼食を抜いて仕事をした。残業は免除してもらい、保育園にお迎えに行った。朝5時の起床をキープするため、手作りの夕食は「捨て」、外食を大いに活用した。代わりに、娘との触れ合いの時間を確保した。

 娘はこの春から小学校に通う。1年前から母親が同居するようになり面倒を見てくれるため、残業も引き受け、帰宅が深夜近くになることもある。だが、病気や行事のときは娘のために時間を割きたい。

「仕事は逆算し、常に早めの進行を心がけているので、結果的に効率も、仕事の質も上がりました」

(ライター・羽根田真智)

※AERA 2020年2月17日号

引用元:
出産「漠然といつか」は男女ともハイリスク 婦人科医師に聞く「出産・育児タイミング」(AERA)