女性のがんの中では最も多い乳がん。しかし、男性も発症することはあまり知られていない。女性と違って検診がないため発見が遅れたり、周囲に同じ病気の人がおらず孤立したりする例も目立つ。病気について多くの人に知ってもらいたいと、患者会は昨秋からホームページを開設するなどして情報の発信に努めている。(植木創太)

 乳がんは、乳房にある乳腺にできる悪性腫瘍。胸には男女問わず乳腺があるため、男性も乳がんになる可能性がある。国によると二〇一六年に乳がんと診断されたのは九万五千五百二十五人。このうち男性は六百七十四人で、割合としては全体の1%に満たない。

 日頃から検診受診の呼び掛けも活発な女性と違い、男性は自覚症状が出てから気付くことが大半。愛知県がんセンター病院の副院長で乳腺科部長を兼ねる岩田広治さん(58)によると、発見のきっかけは、胸にしこりやくぼみができたり、乳首から血が出たりなど。左右の形が違ってくる場合もある。発症しやすい年齢は六十〜七十代で四十〜六十代の女性より高めという。

 治療は基本的に女性と同じだ。疑いがあれば、超音波検査やマンモグラフィーで腫瘍の有無を調べ、可能なら手術で切り取る。術後は抗がん剤やホルモン治療で再発を防ぐ。ただ、胸に膨らみがない分、がんが皮膚や乳頭に浸潤しやすく、女性よりリンパ節や肺などへの転移が早く生じるとされ、早期発見できるかが予後に大きく関わる。

 大事なのは、自身の発症リスクを把握すること。第一歩は、血縁に乳がんになった人がいるかの確認だ。岩田さんによると、男性の乳がんは遺伝の要因が女性の場合より強く、血縁に患者がいることが多い。母親や姉妹、祖母、いとこが発症しているなら注意が必要。入浴時などに胸を触り、しこりの有無などを確認したい。数十万円という費用がネックだが、遺伝子検査を受けるのも手だ。

 男性の場合、胸のしこりは、ホルモンバランスの乱れなどで乳房が膨らむ「女性化乳房症」によることが多いが、自己診断は禁物。岩田さんは「乳がんは早い段階で見つかれば命に関わることはほぼない。男性も違和感があれば乳腺科を受診して」と呼び掛ける。

ホームページ作成や交流会…
患者会が情報発信
 がんに関する情報を発信する認定NPO法人キャンサーネットジャパン(東京都文京区)は二〇一八年一月、患者会「メンズBC」をつくった。BCは英語で乳がんを意味する「breast cancer(ブレストキャンサー)」の頭文字。三カ月に一回の頻度で計七回催した交流会には二十三人が参加。昨年十月につくったホームページでは、患者の体験談も紹介している。

 症例の少ない男性乳がんの患者は、孤独に陥りがちだ。メンズBC設立も、女性の患者会に、男性患者が参加を希望してきたのがきっかけという。一八年四月の第二回交流会から参加する岐阜県池田町のフリーライター、野口晃一郎さん(45)は一七年二月に乳がんで左胸を切除し、ホルモン治療を継続中だ。「同じ境遇の同志が増え、勇気をもらえた」と振り返る。

 事務局によると、今年に入って民放ドラマで男性乳がんが取り上げられるなど認知度は上がりつつある。ただ「乳がん=女性」という偏見は根強く、家族ら親しい人以外には病名を告げられない患者も多い。事務局員で自身も乳がん患者の大友明子さん(55)は「検査室から出る際、女性に白い目で見られたと言っていた男性患者もいた」と残念がり、理解を求めている。

引用元:
乳がん 男性にもリスク 検診なく発見遅れも(中日新聞)