乳がんの治療でブラジャーが合わなくなることがある。「サイズが変わった」「手術痕に縫い目が当たって痛い」「皮膚が敏感になって化繊だとかゆい」など、そんな女性の悩みに寄り添い続けてきたのが「KEA工房(ケアこうぼう)」だ。専用のブラジャーやパット、温泉施設で使用する入浴着などの自社開発製品を扱うほか、既製のブラジャーのお直しも請け負う。

「まずは気軽に来店してほしい」と語る同社代表取締役の澤井照子氏と、銀座本店の原島亜奈氏に話を聞いた。

 創業のきっかけは20年ほど前に遡る。澤井氏は縫製技術を生かしてシャツなどのアウターやブライダル用インナーのお直しを請け負っていた。そこに乳がんの治療で乳房を切除した女性が現れる。「既製のブラジャーを私の身体に合うように直してほしい」という依頼だった。

 「初めての依頼で驚いたが、専用品が流通していない時代だったので、大変喜ばれた。そこから口コミが広がったのか、同じ悩みを抱えるお客さまが何人も来店し、困っている方が多いことを実感。下着を専門とするKEA工房を立ち上げた」(澤井氏)

乳がん経験者向けのブラジャーにはいくつかの特徴がある。その一つがパット用ポケットだ。一般的なブラジャーでもパットを使うが、胸を支えることが目的なので、ポケットはカップの下半分しかない。一方、乳房切除後は胸全体を覆うパットを使用するので、ポケットも大きなものが必要。専用品にはあらかじめポケットが付いているが、KEA工房では一般的なブラジャーにポケットを取り付けるお直しを請け負っている。

 そのほかにもKEA工房ではワイヤー入りブラジャーからワイヤーを抜く加工や、拡張フックでアンダーを広げる加工、ゆるくなったストラップを詰める加工なども手掛ける。ブラジャーのお直しができるところは少ないうえに、専用品の購入価格と比べたら格段にリーズナブルだとして好評だ。「下着は値段じゃない。自分に合うものを正しく身に着けることが大事」と澤井氏はいう。

術前・術後・回復期に合わせた下着を提案

 ブラジャーに入れるパットにも種類がある。大きく分けるとバストトップのカバーと形状補正のための薄手のパットと、乳房のふくらみを作るための厚手のパットの2タイプ。厚手のパットは形状やサイズにバリエーションがあり、素材も多様。手術から日が浅い場合は肌あたりが良い布製パットが、安定してきたら弾力あるシリコン製パットがそれぞれ適しているという。

 「シリコン製パットは重みがあるのが特徴。乳房は意外に重く、一方を切除すると身体のバランスが崩れて転びやすくなったり、肩こりや腰痛に悩まされたりする人がいるほか、胸を目立たせないようにと不自然な姿勢を続けて側弯症になる人もいる。パットは見た目の美しさのためだけではなく、身体を守るために必要なもの」(銀座本店の原島氏)

幅広い層に人気があるのがKEA工房オリジナルの前開きインナー「ホスピタブル・ロング」だ。診察や治療の際には下着を外す必要があるので、入院前に準備して術後の経過が落ち着くまで愛用する人が多い。

 「身体にストレスがかからないようにゆったりとした作りになっている。丈が長いので、ドレーン(※)の上からでも着用可能。素材は肌あたりの良さにこだわって、縫い目をすべて外側に出した。一見すると裏返しのようだが、内側がシームレスなので着心地が良い。乳がん以外の方にも使っていただいている」(原島氏)

「またおしゃれが楽しめそう」と喜ぶ人も

 国立がん研究センターによれば、乳がんは女性が罹患するがんの中で最も多く、2019年の罹患数は9万人を超える見込みだ。その全員が乳房を失うわけではない。乳房温存療法や乳房再建術を選択できる場合もある。ただ、多くの女性は乳がんの診断にまずショックを受ける。手術後に起こる変化を受け入れるのも容易なことではない。

 「手術前に来店されたあるお客さまは商品説明の途中で泣き崩れた。『淡々と準備するつもりだったのに、パットを見ていたら本当に胸がなくなるんだと実感が湧いた』とおっしゃっていた。やはり女性にとって胸は特別なもの。ご家族にも話せないつらさを抱えている方は本当に多い」(原島氏)

KEA工房では可能な限りサロンへの来店を促す。商品にはさまざまな特徴があり、治療の内容や術後の経過、ライフスタイルなどによって必要なアイテムが異なるため、専門知識を持つスタッフがカウンセリングを行う方が良いとの考えからだ。センシティブな内容だけに、KEA工房ではフィッティングサポートを事前予約制とし、一人ひとりがゆっくりと過ごせる環境を整えた。

 カウンセリングの過程で悩みや不安を打ち明けてスッキリしたという人もいれば、専用のブラジャーの補正力に驚き「またおしゃれが楽しめそう」と喜ぶ人もいる。こうした体験ができるのもサロンだからこそ。下着で洋服が映えるように、心持ち次第で女性は美しくなれるのかもしれない。


引用元:
乳がんサバイバーに自分らしく装うよろこびを(DIGITALIST)