さまざまながん治療の現場や患者の気持ちを描き話題になっているドラマ『アライブ・がん専門医のカルテ』。

2話からは、26歳の若さで乳がんと判明した女性が登場している。20代で乳がんと宣告されて人生のどん底にいるのに、病院で偶然出会った同級生は妊娠で産科に通っていた。この運命の差に愕然とし、友達の幸せを喜べない自分に嫌悪感を抱いてしまうというシーンが描かれた。

がんは、40歳以降に発症することが多い。が、40歳未満でがんを発症することもあり、15歳〜39歳でがんを罹患した人たちを“AYA(アヤ)世代”と呼ぶ。AYAとはAdolescent and Young Adult(思春期や若年成人)の略語で、15歳未満は小児がんとして分けられているが、小児がんから成長した人たちもAYA世代に含まれる。

そこで今回は、AYA世代ならではのがんの課題をドラマの企画協力医でもあり、腫瘍内科医の日本医科大学付属武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之医師と、実際にAYA世代でがんに罹患した方に話を聞いた。
大人世代とは違う悩みを抱えるAYA世代のがん

AYA世代とひとくくりにいっても幅があり、就学中、アルバイト、社会人、親になっている人もいるなど、生活背景や家族構成のバリエーションは幅広い。中高年層のがんともっとも大きな違いは、進学、就職、恋愛、結婚、出産など、人生の大きなライフイベントが控えている年代ということで、抱える悩みの種類が異なり、複雑さは増す。

「AYA世代のがんは、全世代合わせた罹患者の約2.3%と割合は少ないですが、年間約2万人の若者が新たにがんに罹患しています。AYA世代のがんの特徴は、小児がなるがんと成人がなるがんの両方が発生し、さまざまな種類の希少がんが多いこと。なかには進行スピードが早いものもあります。

女性で20代から増えてくるのは子宮頸がんと乳がんですが、ほかに男女ともに多いがんに血液腫瘍(白血病、悪性リンパ腫など)、胚細胞性腫瘍があります。多いとはいえ胚細胞性腫瘍は人口10万人に1人という希少がんです。血液腫瘍も胚細胞性腫瘍も抗がん剤が効きやすいがんですが、希少がんを診るがんの専門医が少なく、正しい診断がされていないケースも多い。また、本人や家族も、がんになるとは考えておらず受診・発見も遅れやすいのです」(勝俣医師)

10代20代に多い胚細胞性腫瘍は多くは、精巣や卵巣が原発なのだが、精巣や卵巣以外から発生する胚細胞性腫瘍もあり、その場合、臓器を横断的に診る腫瘍内科医でなければなかなか診断が難しいという。また血液腫瘍は血液内科で治療が行われる。

勝俣範之医師
国立がん研究センターに20年勤務した後、日本医科大学武蔵小杉病院に腫瘍内科を開設。抗がん剤治療の第一人者であり、緩和療法に精通。誤解されがちながん情報をわかりやすく解説する。

AYA世代の不安は、情報のなさと強烈なまでの孤独感

24歳のとき自覚症状があってクリニックを受診した岸田徹さん(32歳)も、半年以上たった25歳で胚細胞性腫瘍と宣告された。

「首のリンパ節が腫れて受診しましたが、原因が分からないと放置されました。半年後、ソフトボール大まで腫れあがり体調も悪く、数件の病院を受診。やっと胚細胞性腫瘍と診断されたときには、がんが全身に広がっていると言われました。まさかこの若さでがんになるとは思っていませんし、希少がんは原因が分からないことも多い。がんの発見が遅れたという話は僕以外にもよく聞きます」

さらにショックだったのは、手術後“妊孕性(子供を作る能力)”を失ったことだった。「この先、男として生きる価値があるのか」と、とても悩んだそうだ。

「同じ病気の妊孕性について検索しても、まったく情報がない。情報がないことがこんなにも絶望につながるのかと思いました。そしてやっと同じ病気の人とネットでつながり、妊孕性が快復したという体験談を聞かせてもらったことで、将来への一筋の光が見えてきました」と岸田さん。

AYA世代が抱える不安の元は、情報の少なさと、似た境遇の人が周りにいない強烈な孤独感だという。そこでAYA世代や希少がんを含めた幅広いがんの経験者に体験を語ってもらい、不安の解消に役立てればと始めたのが、がん患者のインタビューをYouTubeでライブ配信する『がんノート』だ。

「医療のことは医療者に聞けますが、本当に知りたいことは、お金、性、仕事といった生活に一歩踏み込んだ情報なんです。プライベートなことでも、みなさん意外と詳しく話してくれます。さらに、ネットなら全国どこでもつながれます。がんの種類は違えども、AYA世代や希少がんの人が抱える悩みは似ているため、体験をシェアし発信側と視聴者がコミュニケーションをとることで、勇気づけられることがあると思います」(岸田さん)

がんノートの配信は月2~3回ペースで、この1月で217回目を迎えた。がんの種類は希少がんも含めて豊富だが、インタビューは、生活のことが中心。その人らしさが出る、ゆるい場を目指しているという。

「最近特に、地方へ行くほど、“がんノート見ています”、“がんノートで勇気をもらいました”という声をもらいます。放送を続けていく中で、地域の特色や情報格差があることも見えてきました。今後さらに地方での開催回数を増やしていきたいと計画しています」(岸田さん)

親の過剰な心配が、治療を阻んでしまうこともある

もうひとつ、AYA世代ならではの悩みとして多いのは、「AYAの中でも特に若い子たちは親主導で治療や生活が決められることもある」と岸田さん。一方で、親が心配するあまり、親に気を使って自分の意見を主張できないケースも多いという。

ドラマの中でも、腫瘍内科医が患者である娘に質問していることを、横にいる母親がまくしたてるように答えるといったシーンがあった。20代の娘ががんとなれば親だって平常心ではいられない。その気持ちも分かるし、責めることはできない。ただAYA世代はもう子供ではない。治療するのは本人だ。「親も子も正しいがんの知識を持って、本人が主体となって納得し、治療に望むことが大切」と、勝俣医師も言う。

「未婚の若い患者さんの多くは、親御さん同席で受診されます。なかには、本で読んだとかで、ご両親が抗がん剤を悪いものだと信じてしまい、抗がん剤が効くがんなのに治療をしない、と言われることもあります。進行の早い若い世代のがんで一番大切なことは、早く適切な標準治療を受けることです。ご本人と親御さんに何度も丁寧に説明して説得しますが、正直、難しいときもありますね」(勝俣医師)

岸田さんも、白血病を罹患した若い人で、親の判断で無治療を決めた人の話を聞いたことがあるそうだ。何としてでも我が子を救いたいと悩み抜いた末の選択だと思うと、がん情報のあり方の重みを改めて考えさせられる。
「将来、子供を持てる?」の不安とどう向き合うか

男性の岸田さんも悩んだというが、AYA世代のがん治療は男女とも“妊孕性”が損なわれる可能性がある、という問題はとても大きい。乳がんと診断された私の若い友人は、抗がん剤の初日、治療をしたら将来子供が産めなくなるかもという不安感で怖くなり、病院へ行けず駅のベンチでずっと泣いていた、と言っていた。それくらい、悲しく怖いことなのだ。

「確かに、乳がんの治療で術後に使う抗がん剤は卵巣にダメージを与えるので一時的に閉経することがありますが、AYA世代の方は若いので、治療後に生理が戻り、妊娠される方もいらっしゃいます。ただ、一定数の割合で閉経する方もいます。また、乳がんに使う、女性ホルモンの機能を抑えるホルモン療法を始めると5年~10年は妊娠できません」(勝俣医師)

若年性乳がんの会『Pink Ring』を主宰する御舩美絵(40歳)さんはこう言う。

「若年性乳がん患者さんを対象に、実態調査(2016年~2017年、複数回答)を行いました。“がん診断時の心配事”の1位は“生存率”(67%)だったのですが、2位はそれとほぼ同じ“将来の妊娠出産”(66%)が悩みであることがわかりました。そのあと結婚・恋愛(50%)が続きます。生きることと同じくらい妊娠出産は懸念事項だったのです」。

御舩さん自身31歳とき、結婚式の2週間前に乳がんが分かり、彼(現夫)に「結婚やめてもいいよ」と伝えたという。そのときの気持ちはどんなだっただろう。

「未婚・既婚に関わらず、将来の妊娠・出産に関する悩みは深いです。未婚の方では、一生結婚できないのでは、恋人ができても病気のことをどう伝えればいいか分からないと言った相談もよく受けます。私もそうでしたが、がんになった自分に負い目を感じ、恋愛や結婚に積極的になれないという方は少なくありません。

今は治療後の妊娠の可能性を少しでも多く残すために、妊孕性温存を考える方が増えています」(御舩さん)。

勝俣医師も、AYA世代には、がん治療で妊孕性に影響がある場合、治療前について必ず妊孕性温存の話をするという。

「精子凍結保存、卵子凍結保存、既婚者であれば受精卵の凍結保存もできて、この分野も少しずつ研究が進んでいます。将来の出産を希望する場合は、腫瘍内科と連携した婦人科を紹介することも。治療が始まる前に相談することが大切です。

ただ、女性は排卵を待つ時間が必要になり、治療をどこまで先延ばしにできるかという問題もあります。妊孕性温存で必ず妊娠できるわけではないことや、保険がきかないので費用がかかることなども説明します。

実際はがんと診断されると、まずは命が助かることを先決されることが多いので。将来のことまで考える余裕がなく、温存される方はまだ少ないですね」(勝俣医師)。

「ひとりじゃない!」の活動がAYA世代で広がる

さて、御舩さん率いる『Pink Ring』も、岸田さんが主宰する『がんノート』と同様に、「あなたは一人じゃないよ、同じ境遇の仲間がいるよ」と孤独を抱える同士たちに呼びかけることが大きな目的だ。

「11人に1人が乳がんになると言われていますが、AYA世代は全体のわずか6%で、全国に点在しているため、同じ病院でなかなか出会えず孤独に病気と向き合っているのが現状です。がんになると、その状況に合わせて人生を再構築していくのですが、同じ境遇の人が集まるコミュニティに参加した方が『仲間に出会って、人生のパズルの中で探していた最後のピースが見つかりました』と話してくれたことがあります」(御舩さん)

Pink Ringの一参加者だった人が、自分の住む場所にもそういうコミュニティを作りたいと活動を始め、現在は全国4エリアにまで広がった。2月1日は、全国中継による“Pink Ring Summit”と言うイベントも開催された。

「一人で考えても、自分がどうしたいのかわからなくなってしまうことがあるけれど、同世代でがんを経験した人に出合って色々な価値観を知ることで、自分の価値観が明確になることがあります」(御舩さん)

Pink Ringでは、正しい情報を知るという観点から医師や専門家らの協力を得て、AYA特有の医療情報(妊孕性や遺伝など)の事、社会的な問題(お金や仕事、美容など)にも重きを置いたサイトへ、昨年12月リニューアルした。さらに、外出できない人でも参加できるウェブでのおしゃべり会も開始。海外在住の参加者もいるという。

御舩さんは、5年間のホルモン療法を終えた後、一度は流産したが、39歳で母親になった。

「私はたまたま妊娠しましたが、そうでない人もいます。ただ子供が欲しいと願い、その手段があるのであればと、可能性に挑戦しました。がんをきっかけに子供を持たない人生を選ぶ方や、養子縁組を選択する方もいて、人それぞれが正解だと思っています。

ただ、がんになって、命が救われただけでは人は救われない。自分がこれからどう生きたいか、どうなりたいかというのはそれぞれが大事にしてほしいし、そこは絶対に諦めなくていいことだな、と思っています」(御舩さん)

岸田さん、御舩さんのように、人数では少数派のAYA世代は、私の年代とは全く違うツールを使い全国にいる仲間に呼びかけてつながり、「私たちはここにいるよ」と世間にその存在を示している。フレキシブルな発想を生かし、アクティブに情報発信してくれているのが頼もしい。白血病を罹患した池江璃花子さんや、以前インタビューした乳がんを罹患した元SKE48の矢方美紀さんのように、AYA世代でがんを包み隠さず公表する有名人も多く、がんを隠さなくていい世の中に動いている。その流れを牽引しているのはAYA世代かもしれない。

AYA世代のがんは実は検診には向かない!?

その一方で、AYA世代の著名人のがんが公表されると、若い年齢の間で、「検診に行かなければ」、という動きが必ず起こる。しかし、若い世代で有効ながん検診は子宮頸がん検診のみ、と勝俣医師は言う。

「がん検診はスピードの速いがんには向いていません。若い年代のがんは進行スピードが速く、毎年受けても早期で発見が難しいのです。唯一有効とされているのは、20歳以上で2年に1回の検診を推奨している“子宮頸がん検診”のみです。

そもそも有効ながん検診は、検診によって早期で見つかり、死亡率を下げることを証明されている5大がん(肺、大腸、胃、乳房、子宮)のみで、受診年齢や頻度も決まっています。子宮頸がん以外の検診はAYA世代が受けても見つけることが困難で、不利益ばかりが勝ります」(勝俣医師)。

そして、忘れてはいけないのは、“子宮頸がんは予防できる”ということだ。

「発展途上国も含む世界中で10代から子宮頸がん予防としてHPVワクチンの接種が推奨されています。10代だけでなく20代のワクチン接種も効果があるというデータもあります。しかし、日本ではワクチンの副反応を懸念し、実施されていないのが、非常に残念です」(勝俣医師)。

検診も予防法もほぼないAYA世代のがん。だからこそ、体調やからだに異変があったら、病院で診てもらうことが大切だ。もしも原因不明の不調が長く続くようなら、がんを疑い腫瘍内科医を受診することも頭の隅にいれておきたい。

引用元:
男性も不妊?腫瘍内科医と罹患者が語るAYA世代のがん「治療・結婚・出産」(現代ビジネス)