宿泊や訪問など 法制化で前進

助産師などの専門家が心身の不調や育児不安を抱える産後の母と子を支援する「産後ケア事業」が、全国に広がっている。昨年11月には、産後1年以内の母子を対象に、事業の実施を市区町村の努力義務とする改正母子保健法が成立。2021年中に施行される。現在、事業を実施するかどうかは自治体に任されているが、法制化することでうつや虐待の予防に役立てたい考えだ。 (吉田瑠里)


写真
 産後ケアは、核家族化などによって、親の助けが得られにくいといった事情のある母親の孤立を防ぐのが目的。妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を行おうと、一五年度から国が事業費の半分を補助している。宿泊型、デイサービス型、自宅訪問型の三つがあり、助産師らが沐浴(もくよく)や授乳といった育児の方法を教えたり、話を聞くなど母親の心と体をケアしたりする。昨年度は、全国千七百四十一市区町村の約四割に当たる六百六十七市区町村が実施。中部九県では百八十の自治体が導入している。

 愛知県小牧市もその一つだ。市内の山瀬彩帆さん(25)は昨年十一月、初めての子を出産後、四泊五日の産後ケア入院をした。夫婦そろって両親が働いている。「体調が戻らない時期、昼間に一人で子育てをするのに不安を感じた」ため、出産後の入院期間を延ばす形を取った。夜は二時間おきの授乳のたびに助産師を呼び、飲ませ方を教わった。「夜中に大量に吐いた時も対処法を教えてもらえて安心できた」と感謝する。

 退院したのは、出産から九日後。負担は一日三千円で、計一万五千円だった。

 同市が事業を始めたのは一八年九月。生後四カ月未満の子を持つ母親と子どもが対象でデイサービス型と宿泊型の二つを展開する。本年度は十組程度の利用を見込んだが、予想を上回ったため、年度途中で当初予算百十万円を五倍以上に増額。今月十九日までに延べ十九組が利用した。

 委託先の一つで、山瀬さんが出産、産後ケア入院をしたエンゼルレディースクリニック院長の足立俊雄さん(65)は「悩み抜いてから相談に来る母親が減った。虐待の予防につながる」と手応えを感じている様子。市子育て世代包括支援センター副所長の岡本弥生さん(47)は「私たちが考える以上に不安を抱えるお母さんがいる」と話す。

 国立成育医療研究センターなどが一五〜一六年の妊娠中から産後一年未満の女性について、人口動態調査を基に分析したところ、出産後に自殺した女性は九十二人に上る。三十五歳以上、初産の人の割合が高かった。自殺は産後一年を通して見られた。日本産婦人科医会によると、産後うつをはじめ妊娠や出産をきっかけとするうつは、妊産婦の10〜15%が発症。背景には、責任感の強まりや、実際の子育てと想像との違いなどがあるという。

 少しずつ広がる産後ケアだが、自治体ごとに実施する事業や利用料などは違う。里帰り出産を見据え産婦人科医会が指摘するのは市町村を超えた連携の難しさ。認知度も低い。愛知県立大看護学部の神谷摂子准教授(ウィメンズヘルス助産学)が一八年九〜十二月、一〜三歳の子を持つ県内の母親三百六十三人に、退院後、子が一歳になるまでの不安の有無を尋ねたところ、「感じていた」と答えた人は一カ月までが最も多く47・4%。時間の経過とともに減るが、三〜四カ月健診後から一歳までの間も38・8%だった。一方、産後ケア入院を知っているのは16・3%、デイサービスも15・7%にとどまった。

 母親が孤独に陥る原因として、神谷さんは時代の変化を挙げる。「出産で里帰りする母親は多い。しかし、働く祖母が増え、子どもと二人きりで日中を過ごす人も少なくない」と説明。「行政が助成して利用料を下げたり、産婦人科医や助産師らじかに接する人がSOSを見逃さず産後ケアの情報を届けるようにしたりする工夫が大事」と話す。

引用元:
母の孤立防ぐ産後ケア事業 育児不安 助産師らがサポート(中日新聞)