女性は年齢が上がると妊娠しにくくなるといわれているが、妊娠率はどれくらい下がるのか。医師のエレン・ストッケン・ダールとニナ・ブロックマンは、「30代後半でも82%もの女性が妊娠したという研究結果がある。不妊になる原因は、年齢よりもホルモンバランスの崩れの方が大きい」という——。
※本稿は、エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン著、池田真紀子訳『からだと性の教科書』(NHK出版)の一部を再編集したものです。
※統計の数字はノルウェー版原書の数字です。

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「そろそろ子供を」と口出ししてくる人にどう対抗するか
三十路が近づくと、こちらの私生活に口出しをする権利があると勘ちがいする他人がなぜか増えます。「年齢には勝てないのよ! そろそろ子供のことを考えなくちゃ」。こちらが独身だろうと、新しい人と交際を始めたばかりだろうと、仕事と結婚しているような毎日であろうと、おせっかいな人たちは気にしません。いましていることをすべて放り出し、最初につかまえた男性と即座に子作りに励みなさいと言わんばかりです。

子供を産むことを考える……ね。子供を産みたいとは思っていても、なかなかできずにいる女性は大勢います。子供がほしい人でも――そもそも、ほしくて当然ではありません――その前にクリアしなくてはならない問題がたくさんあります。わかりやすいところでは、この人となら子供を持ちたいと思える相手、しかも自分について同じように思ってくれるような人を見つけるという難題が。

しかし世の中はうまくいかないもので、若くてかわいらしい女性が2杯ほどお酒を飲み、ほろ酔いかげんで目をきらきら輝かせながら、子供を産んで落ち着きたいのと口にした瞬間、一目散に逃げていく男性は珍しくありません。

わたしたちにはあいにく、理想のパパを見つける手伝いはできません。でも、口を開けば「子供はまだ?」と訊いてくる人たちに対抗できるちょっとした切り札を授けることならできます。

“子供はまだ攻撃”にさらされてストレスがたまっているなら、ちょっとした慰めにもなるかもしれません。

上がり続けている初産の平均年齢
手始めに、いくつかの事実を挙げましょう。子供を希望する全カップルのおよそ75パーセントは、半年以内に妊娠し、85から90パーセントは1年以内に妊娠します。“不妊”の定義は、避妊せずに性交しているのに妊娠しない状態が1年間続くこと。これは全カップルのおよそ10から15パーセントに当てはまりますが、話はそこで終わりません。

不妊とされたカップルのうち、半数は次の1年間で自然に妊娠します。この人たちは不妊ではなく“不妊症ぎみ”に分類されます。子供ができにくいけれど、時間をかければ妊娠できる人たちです。全体で、異性愛の人たちのおよそ95パーセントは、時間の制限がなければ通常の性交を経て子供を持つことができます。

次に年齢という問題があります。女性の社会進出が進み、一般的になるにつれて、初産の平均年齢は着実に上昇を続けています。2014年、ノルウェーのオスロに住む女性の初産の平均年齢は30.8歳でした。アメリカでは、2000年には24.9歳でしたが、2014年には26.3歳に上昇しました。

初産の年齢が以前より上がっている主な理由は、学歴が高くなったこと、子供を産む前にキャリアを築こうとする人が増えたこと。一方で、医学界は女性に向けて警告を発しています——年齢が上がるにつれて自然に妊娠する確率が目に見えて低くなるというデータを示し、出産を先延ばしにする前によく考えましょうねと促しているのです。

年齢が上がっても妊娠率はそれほど下がらない
これには根拠があります。そのうちの一つを挙げると、母親の年齢が高くなるほど妊娠合併症のリスク、子供に先天性の異常が生じるリスクが増すからです。問題は、30歳の誕生日を過ぎると妊娠しにくくなるというのは本当なのか、それとも単なる脅しにすぎないのかということです。

健康な女性を対象に、妊娠しやすさを調べた最新の研究を見てみましょう。自然に妊娠する女性は、年齢が上がるごとに少なくなっていきますが、その落差は世間が想像しているほど大きくはありません。ある研究は子供を望んでいる782組のカップルを追跡調査しました。その結果、19から26歳の女性のグループの妊娠率は明らかに高く——1年以内に92パーセントが妊娠——年齢が上がるにつれて妊娠率は下がっています。しかし20代後半から30代はじめの女性の妊娠率に大きな差は見られませんでした。

30代後半になっても大半の女性は妊娠できる
27から34歳の女性が1年以内に妊娠した率は86パーセント。これが35から39歳になると、同じく1年以内に妊娠した率は82パーセントです。ほかの研究でも似たような結果が出ています。3000人の女性を対象としたデンマークの研究では、35から40歳の全女性の1年以内の妊娠率は72パーセント、排卵日を狙って性交した同年齢グループの女性では78パーセント。30から34歳のグループでは、87パーセントでした。

このデータからどのような事実が読み取れるでしょうか。仮に、すべての女性が高校を卒業すると同時に妊娠に向けた努力を始めた場合、子供ができないのは10人に1人です。20年後、その数字は10人に2人または3人に増えます。しかし裏を返せば、大半の女性は30代後半になっても妊娠できているということになります。

子供がほしいのにできない人にとって、年齢は直接の原因ではありません。まずは3分の1のケースで男性側に理由があることを指摘するべきでしょう。男性の年齢も関係があるのです。残りの3分の2で、女性側に理由が——または理由の一部があります。では、何が問題なのでしょう。

不妊の最大の原因は年齢ではない
不妊の最大の原因は、排卵をコントロールしているホルモンの分泌が不充分であることです。ホルモンバランスが崩れる多囊胞性卵巣症候群が原因のことが多いようです。次に卵管のダメージが挙げられます。これはクラミジアなどの性感染症が原因かもしれません。細菌の侵入によって卵管が炎症を起こし、瘢痕が残ってしまうのです。


エレン・ストッケン・ダール、ニナ・ブロックマン著、池田真紀子訳『からだと性の教科書』(NHK出版)
また、子宮内膜が本来あるべきでない場所で増殖する子宮内膜症も不妊の原因になります。最後にもう一つ、子宮筋腫も妊娠を妨げることがあります。不妊の原因としてよくあるのはこういった疾患やトラブルで、年齢ではないのです。

ただ、年齢が上がるにつれて流産のリスクは高くなります。少し前に説明したように、35歳を超えると流産のリスクは2倍になります。つまり、35歳未満の女性に比べて、35歳以上の女性は流産しやすいといえそうです。

年齢が妊娠する確率にマイナスの影響を及ぼすのは明らかです。また流産や妊娠合併症、ダウン症候群など遺伝子疾患の割合も高くなります。それでも大半の女性は、30代後半にさしかかってからでも“昔ながらの方法”で健康な子供を出産しています。特定の女性が不妊に悩むことになりそうかどうかを統計から予測するのはもちろん不可能ですが、28歳の時点で妊娠を希望したとしても、同じように不妊に悩んだ可能性はあるでしょう。

子宮内膜症や多囊胞性卵巣症候群の疑いを指摘されたなら、あるいはクラミジアに感染したことが何度かあるのなら、“妊活”を始める時期をあまり先延ばししないほうがいいかもしれません。思った以上に時間がかかってしまうことがあるからです。

引用元:
不妊の最大原因は「年齢」以外のところにあった 注意が必要なのは年齢より「疾患」(PRESIDENT Online)