乳がんの手術後もかわいい下着を着けたい――。岡山市の「ブレストカウンセラー」の岡いずみさん(58)は職人技の採寸で、乳房を再建後、痛みや形の変化に悩む女性に最適なブラジャーを提案している。医師も太鼓判を押すとっておきの一枚が、社会復帰する人たちの支えになっている。
▽和らぐ痛み
「前回より表情が明るいわね」。9月下旬、色とりどりのブラジャーが並べられた京都民医連中央病院(京都市)の診察室。岡さんは2回目の相談に訪れた井上架予子さん(49)に声を掛け、胸の状態を確認していた。
検診で左胸に乳がんが見つかり、2018年11月に全摘。19年6月、シリコーン製の人工乳房で再建した。その過程で皮膚を伸ばす器具を胸に入れたが、理容師の仕事で腕を動かすと強烈に痛んだ。
そんな時、岡さんが薦めたのはカップ付きのインナー。痛みが和らぎ、施術に集中できるようになった。「次はブラジャーを注文して、胸元がきれいに見える服を着たい」と井上さんは笑顔を見せた。
▽諦めないで
岡さんによる胸囲などの採寸は的確で素早い。ブラジャーのサイズを約3千種類の中から選び、再建による左右差はパッドで補う。エステサロンで約10年働いた経験があり、筋肉や脂肪を熟知。体を見れば抱える悩みが大体分かる。
「医療用の地味な下着しか着けられないと諦めてほしくない」。取り扱うのは主に一般の下着メーカーが販売するオーダーメードのワイヤブラジャー。職人が手作業で仕上げる。
岡さん自身も乳がんで手術し、弱音を吐ける存在の必要性を感じた。「医師や家族に言えない悩みや不安を受け止めたい」。メールや電話でも依頼者と向き合う。
▽医療機関が依頼
今につながる契機は岡山大との共同研究だった。土井原博義教授(乳腺外科)らが2010年、乳がん手術後に使うワイヤブラジャーに関する臨床研究を大手下着メーカーと実施。メーカーの販売員だった岡さんも参加し、採寸した。
ブラジャーで胸が固定されると痛みが少なくなると分かり、土井原教授は「再建手術の増加とともに、下着をケアするカウンセラーの需要はさらに高まる」と強調する。
岡さんは14年に独立し、乳がん手術を手掛ける各地の医療機関から依頼が来る。京都民医連中央病院の名嘉山一郎医師は「ブラで患者さんの気持ちが前向きになった。男性医師が分からない感覚をすくい上げてくれる」と語る。「病気を忘れられる華やかな下着を届けたい」。困っている女性がいる限り、メジャーを手に駆け付ける。
引用元:
乳がん復帰支えるブラ 職人技の採寸、医師太鼓判(日本経済新聞)