不妊治療において体外受精や顕微授精などの「生殖補助医療(ART)」の進歩で、95%以上は受精卵(胚)をつくることができる。しかし、ARTによる妊娠率は年齢によって違うが、全体で30%前後でしかない。その大きな原因のひとつが「着床不全」だ。
女性は排卵すると黄体ホルモンが分泌され、その知らせで子宮内膜が厚くなり、血液のベッドが敷かれた状態で受精卵を待つ。この間に受精が行われて受精卵が子宮内膜にたどり着いて定着すると“着床”となり、妊娠が成立する。受精がなければ血液のベッドははがれ落ち、月経血として排出される。
着床不全は、受精卵の質が悪かったり、子宮内膜に問題があったりして着床しにくい状態。これまで血流改善療法やホルモン補充療法などが行われてきたが、あまり効果的ではない。そこで「子宮内膜再生増殖法(ERP)」という新しい治療法が臨床研究として行われている。
研究を進めている「はらメディカルクリニック」(東京渋谷区)の原利夫院長はこう説明する。
「着床不全は、加齢による子宮内膜の老化が最も大きな原因です。しかし、これまでの治療法は子宮内膜に直接作用するものではありませんでした。ERPは患者さん自身の月経血に含まれる幹細胞を抽出し、培養する過程でできる上清液(上澄み液)を子宮内に注入します。上清液にはサイトカインや成長因子など数多くの有効成分が含まれるので、それが直接作用して子宮内膜の再生が促されるのです」
対象は、ARTを行っても何度も失敗している人、子宮内膜が厚くならない人などで、年齢的には35歳以降になる。
治療手順は、月経1〜3日目の月経量が多い日に来院。専用の注射器で月経血を0・5cc採取し、腕からも100ccの血液を採る。それを別の専門施設で月経血から幹細胞を抽出し、腕から採った血液を栄養分として幹細胞を培養する。40日間かけて、月経血由来の幹細胞培養上精液(1cc×3本)ができあがる。
そして患者は通常の排卵時期の3〜5日前に来院し、子宮内に上清液(1本分)を注入する。注入から8〜10日後にエコー(超音波)で子宮内膜が厚くなっていることが確認できたら、事前に体外受精でできた凍結しておいた受精卵(凍結胚)を子宮内に戻すといった治療の流れになる。
「いままで一度も着床が認められなかった人など、多くの患者さんに子宮内膜の再生が認められ、妊娠率もかなりいい成績です。次世代の着床不全治療の切り札になると思っています」
ただし、臨床研究といっても費用はすべて患者負担で、上清液生成(3本分)が55万円、子宮注入(1回)が6万円。他に体外受精や凍結胚などの費用が別途必要になる。(新井貴)
引用元:
【ここまで進んだ最新治療】不妊症治療 子宮内膜の再生促し「着床不全」改善へ(夕刊フジ)