命の芯こそ、美しい――。写真家、殿村任香(ひでか)さん(40)が、がんと闘う女性のポートレートを撮影する「SHINING WOMAN PROJECT(シャイニング・ウーマン・プロジェクト)」に取り組んでいる。自身も今年、子宮頸(けい)がんのため手術を受けた。「がんになっても、あなたらしく生きられる世界に」。副題には「#cancerbeauty(キャンサー・ビューティー)」とつけ、メッセージを発信する。
◇病棟で見た輝き
殿村さんは、自身の母を取り上げた2008年の初写真集を含め、「女性」をテーマに作品を撮ってきた。体に異常が見つかったのは、今年4月。ショックを受けながらフェイスブックで報告すると、連絡が途絶えた人たちもいた。「突然で戸惑ったのだと思うけど……」。孤独感を抱いた。病気についてインターネットで検索を重ね、「手術によって子宮を失うのではないか」と不安も強めていった。
しかし6月、入院したがん専門病院の病棟で衝撃を受けた。おしゃれなヘッドスカーフを巻き、口紅を引いて、新作のウイッグのことをデイルームで楽しそうに話す女性たち。「生死と向き合って、命の芯から輝いている」。思い込んでいたイメージと違っていた。
手術の麻酔から覚めた時にひらめく。「あの美しさを撮ろう。伝えよう」。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で闘病を公表している女性にメッセージを送り、賛同してくれる人を訪ねはじめた。体調不良を押して、約25キロの機材を抱え、これまでに東京や群馬、北海道、愛知などで12人を撮影した。
◇選択肢をもっと
11月下旬にレンズの前に立ったのは、千葉県に住む村田羽純(はすみ)さん(34)。2018年に子宮頸がんと診断を受け、ブログとインスタグラムで経過や心身の状態を率直に報告している。子宮、卵巣、リンパ節を摘出、抗がん剤治療を経て一時は経過観察になったが、同月になって肺への転移が分かった。
撮影は、再治療に入る直前。「おしゃれも、恋愛も、結婚も、子宮がなくてもできるって証明したいんです。治療をしながら仕事を続けられる環境も必要だし、選択肢がもっとほしい」。手術の痕に両手を当て、ほほえむ姿を収めた。
◇写真の力で「今」変えたい
撮影後は、ほぼその日のうちにSNSで公開する。展示や写真集にするまでの時間が惜しい。「彼女たちは、今を生きていて、同じ悩みを持つ人に今伝えたい、社会に今変わってほしいと思っている」。だから、リアルタイムで広げる。
一方で、写真は、本人の受け止め方をも変えられることに気づいた。「撮られるということは、傷と病気を受け入れること」。開腹手術で子宮を全摘した女性の言葉がきっかけだ。乳房を切除した胸や、ウイッグをつけない姿も、生きることを選んだ証し。一人一人、道のりを経てきた「本当の表情」が、写真の力になる。笑顔ににじむ涙を一灯のストロボで照らし出し、濃い影も撮る。「失ったものを取り戻した気がする」とつぶやいた人もいる。
◇「もう1ミリだけ」「検診受けて」
「今は簡単に治療できるからいいよね」「(切除すれば)命は助かるのに、それ以上何を求めるの?」。女性たちが傷ついた言葉の一部だ。結婚や出産の話題も突き刺さる。「励まそうとしたのかもしれない。でも、もう1ミリだけ相手の気持ちになって考えてみませんか」。言葉が見つからない時は、そう伝えてくれるだけでもいいという。
メッセージはもう一つ。「きちんと婦人科で検診を受けて」。殿村さんがインスタで連絡を取ろうとしていた30代のシングルマザーが、子宮頸がんのため10月に亡くなった。彼女は、フォロワーに向けて投稿をそう結んでいた。殿村さんも同じ気持ちだ。「見つかりにくいからこそ、変化に気づけるように、定期的に受けてほしい」
◇この1枚から、話をしよう
がんを抱える人たちが、もっと楽に日々を送れたら、と考える。たとえば、骨折した時の松葉杖(づえ)と同じように、ウイッグについても「ちょっと抗がん剤治療中なの」と言えるようになればいい。
「闘病に勝ち負けはないし、本人も周りの人も向き合い方に正解はない。同じ社会で生きていくのだから、よりよい方向を一緒に探したい」。1枚の写真から対話が生まれることを願っている。【岡本同世】
引用元:
命のポートレートで、今を変える 写真家・殿村任香さん、がんの女性たちの「SHINING WOMAN PROJECT」(Yahoo!JAPANニュース)