神戸市立神戸アイセンター病院(神戸市中央区)が9日までに、健康な人の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った、視細胞になる「神経網膜シート」を失明寸前の患者に移植する世界初の臨床研究を、大阪大学の審査委員会に申請した。同病院非常勤医師の万代道子理化学研究所副プロジェクトリーダーらが同日発表した。来年度にも手術を実施する。
万代氏らの研究チームが、動物実験で機能や安全性を確認した。同病院では2014年、目の奥にある視細胞を保護する「網膜色素上皮」をiPS細胞で作ったものに換え、失明を「防ぐ」臨床研究を初実施したが、光を感じる視細胞の今回の移植が成功すれば、将来的には失明状態からの「回復」も期待できる。
同病院によると、移植対象は、わずかに光を感じるだけになった難病「網膜色素変性症」の患者。同疾患は、目の奥の網膜で視細胞が周辺部分から死んで視野が狭まり、最後は失明に至る。日本国内に数万人の患者がいるとされるが、確立された治療法はない。
今回の計画では、2人に片目ずつ、iPS細胞から作った視細胞になる直前の「前駆細胞」を使い、直径1ミリ程度のシートを1〜3枚入れる。極めて小さい移植面積のため、劇的に見えるようにはならないが、安全性が確認できれば、枚数を増やすことを検討する。
視細胞移植は、神経回路の形成などに時間がかかるため、手術後1年をめどに機能や安全性を評価する。懸念される合併症は現時点では見当たらないが、拒絶反応が起こる可能性があり、免疫抑制剤を使う予定という。
万代氏らは、04年ごろから視細胞移植に向けた研究を開始。近年はiPS細胞などによる視細胞の移植片が情報伝達構造(シナプス)を作り、光に反応することを確認してきた。同時にがん化の危険性がないかも検証してきた。
今回申請したのは、大阪大の「第一特定認定再生医療等委員会」。承認されれば厚生労働省に申請し、来年度の手術実施を目指す。同病院の栗本康夫院長は「臨床研究は中枢神経の再生に向けた第一歩。この一歩は小さな一歩だが、中枢神経の再生を夢見てきた医学研究者や患者にとっては大きな一歩だ」と話している。(霍見真一郎)
【網膜色素変性症】 目の中で光を感知する部分である網膜の遺伝性、進行性の病気。網膜で、目に入ってきた光を感じる視細胞がなくなって起きる。暗い所で物が見えにくくなったり、視野が狭くなったりするほか、色覚障害や視力低下を来す。遺伝子治療や人工網膜の開発が試みられているが、進行を確実に止める治療法は見つかっていない。進行の度合いや症状が現れる順番には個人差がある。
引用元:
iPS細胞移植で失明回復の可能性 世界初の臨床研究へ(神戸新聞NEXT)