厚生労働省の人口動態統計の速報によると、2019年1〜7月の出生数は、51万8590人と、前年同期比5.9%の大幅な減少となった。19年は90万人割れとなりそうだ。110万人割れが05年、100万人割れが16年なので、驚異的なスピードで少子化が進行中だ。対策を講じない限り、日本人の人口は限りなくゼロに近づいていく。

出生数の減少は、1病院当たりの出産数が減ることを意味しているので、必要とされる産科医の数も減る。地方の病院が産婦人科を閉鎖する(あるいは婦人科が維持しても分娩を受け入れない)というニュースをよく聞くようになって久しい。最新の事例では、尼崎医療生協病院による19年8月1日付のお知らせで、「20年2月末日をもって分娩の取り扱いを中止することとなりました」としている。

もちろん、近くの病院の産婦人科が閉鎖されると、さらに子どもを産もうという意欲をそぐ結果となり、さらに出生数は減少する。分娩を担当する産科医を増やすためには、地理的に近いところにある地域の総合病院の統合、地域の総合病院と(個人)開業の産科医との連携などが考えられる。総合病院で働く産科医の収入が増えるような方策がぜひとも求められる。

産婦人科医は、診療数の割には訴訟リスクがほかの専門医よりも高い。17年の医事関係訴訟事件(地裁)を診療科目別で見ると、内科181件、外科112件、整形外科100件、歯科88件に次いで、産婦人科が54件である。しかし、これを医師1人当たり、あるいは診察1回当たりなど基準化すると産婦人科の訴訟割合は突出して大きい。出産時における不幸な結果が、医師の過失なのか、医師が最善を尽くしたにもかかわらず起きた事故なのかを、法廷で争うと、時間も弁護士費用などもかかり、個人的にも社会的にも非常にコストが高くなる。

このようなことから、医師の無過失保険(責任の所在を争わない)、「産科医療補償制度」が09年に創設された。しかし、その範囲は分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に限定されている。産科医になるのを躊躇させるようなリスクの軽減は必要で、無過失保険の適用範囲の検討は急務である。

夫婦の希望する子ども数(だいたい1.8人といわれている)をはるかに下回る合計特殊出生率しかない(第二次ベビーブームのピークでは1973年に2.14を記録したがその後低下が続き、89年に1.26で底を打ち、16年には1.44まで回復したが、近年は再び低下傾向にある)。子供は欲しいけれど、さまざまな理由で実現していない。これが何十年も続いている。最大の要因のひとつは、働く女性のキャリア形成が、出産、子育てによって中断されることである。

男女雇用機会均等法が施行されたのが、86年。それからおおよそ10年後に第二次ベビーブームで生まれた世代が子どもを持つ年齢になっている。この10年間の間に、出産、子育てをしてもキャリアの中断にならない制度(保育園、幼稚園の数の劇的増加)を考えて実行すべきだった。

女性の社会進出は、いろいろな意味で大変に意味のあることである。しかし、それが出生率の必要以上の低減につながったのは、国の将来を考えるうえで禍根が残った。現在の安倍政権での女性の労働参加率の上昇と、幼児教育無償化などの努力は、30年遅い。

また、19年10月に始まった幼児教育無償化も、共働き夫婦の子供を持とうとする決断の後押しとしては、弱い。彼らが第一に求めているのは、待機児童の解消の保証であり、無償化ではない。公的な認可保育所などの費用は共働き夫婦にとっては払えない金額ではない。問題は入所の確約が得られないことだ。1人目の保育所の確保に苦労すると、2人目は二の足を踏むという夫婦も多い。

待機児童解消が出生率の上昇のためには必要なのであり、そのための政府や企業の努力はまったく足りない。1人でも待機児童がいたら、保育所を増設するくらいの政府の保証が必要だ。保育士が足りなければ、保育士の給与を引き上げる。また、保育士の補助をする職種を新設することも考えればよい。これも、早急に手を打たないと、無償化はしたけれど、出生率はさらに減り続けるだろう。

引用元:
日本の出生数減少を防ぐ、方策と盲点とは(ForbesJAPAN)