豪雨や地震など相次ぐ災害に備え、乳児用の液体ミルクを備蓄する自治体が急増している。メーカーなどによると、国内販売がスタートした今春以降、少なくとも50自治体が採用。粉ミルクのように湯で溶かす必要がなく、断水下でも安心して使えると好評だ。10月の台風19号でも乳児のいる家族に配られた。

▽手軽さに注目

「間に合いました。備蓄しておいてよかった」。台風19号で河川が氾濫した栃木県栃木市は、9月に缶入りの液体ミルク240本が届いたばかりだった。市危機管理課の担当者は「避難所に運び、希望者に手渡すことができた」と話す。

3月に紙パック入りの450本を購入した千葉県山武市も9月の台風15号で、希望者に配った。停電などで孤立した世帯には保健師らが訪ねて渡し、1週間で全てなくなったという。市健康支援課の保健師は「お母さん方が『ありがたい』『安心した』と喜んでくれた」と振り返る。

母乳の代わりとなる液体ミルクは、海外では育児支援用品として普及しているが、日本では2018年に厚生労働省が成分や安全性の規格基準を定めるまで製造・販売ができなかった。

転機になったのは、16年の熊本地震。フィンランドから支援物資として送られ、断水が続く被災地で「開封したら、常温でそのまま授乳できる」と注目された。

このため厚労省は18年8月、規格基準を定めた省令を施行。今年3月に江崎グリコ、4月に明治が販売を開始し、雪印メグミルクも20年度の参入を目指している。

▽急速に浸透

メーカーなどによると、液体ミルクを備蓄しているのは北海道釧路市、秋田県横手市、水戸市、東京都八王子市、新潟県長岡市、三重県、広島県尾道市、長崎県雲仙市など全国に及ぶ。東京都文京区や香川県丸亀市なども採用を決めており、検討中の自治体も多い。

明治広報部は「商品設計の段階から、災害時の使用を想定していた。商品への理解は着実に広がっている」と言う。

液体ミルクより賞味期限が長く、価格が安い粉ミルクと併用するケースも増えている。備蓄する品目を市町村と分担している鳥取県は今年8月、市町村にある粉ミルクの約2割を液体ミルクに置き換えることにした。20年6月ごろまでに準備し、使い捨ての哺乳瓶も一緒に備蓄する予定だ。

大阪府東大阪市も、19年度中に1680本を購入する。同市で最大級の地震が発生したと想定し、0歳児の1日分を賄える液体ミルクと哺乳瓶を備えるという。

東大阪市危機管理室の福永悟之次長は「災害時、子どもを連れて逃げるだけでも大変。少しでも負担が軽くなるようにしたい」と話した。〔共同〕

引用元:
災害時の備えに液体ミルク 50以上の自治体が採用(日本経済新聞)