理化学研究所(理研)は11月20日、雄性生殖機能が特定の脂肪酸バランスによって維持される仕組みを解明したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センターメタボローム研究チームの宍倉匡祐大学院生リサーチ・アソシエイト、有田誠チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「The FASEB Journal」に掲載されている。


神経組織、網膜、精巣など特定の臓器には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)を含有する脂質が、他の臓器に比べて多いことが知られている。特に膜リン脂質に含まれるLC-PUFAの割合が高く、脳の認知機能や光受容、精子形成など特殊な機能を最適化するための生体膜環境の構築に、LC-PUFA含有リン脂質が重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、その詳しい分子メカニズムや生理的意義は明らかにされていなかった。

脂肪酸バランスの調節が、雄性不妊の治療に繋がる可能性
研究グループは今回、細胞内の脂肪酸をアシルCoAに変換する「長鎖アシルCoA合成酵素6」を欠損した「ACSL6欠損マウス」を作製し、その表現型解析を行った。まず、ACSL6欠損マウスの交配を行ったところ、同マウスが雄性不妊であることを見出した。そこで、精巣の脂質組成についてリピドミクス解析を実施。その結果、DHA含有リン脂質およびDPA含有リン脂質が大幅に低下していることがわかった。さらに、通常、精細胞では分化に伴ってDHAおよびDPA含有リン脂質が増加したことから、その制御をAcsl6が担っていることが明らかになった。このとき、ACSL6欠損マウスの精細胞では、DHAおよびDPA含有リン脂質が通常よりも大幅に減少するのに対し、アラキドン酸含有リン脂質は通常よりも増加。これらのことから、膜リン脂質環境では、精子の正常な発達や機能が保てないことが判明した。

また、ACSL6欠損マウスの精巣では、DHAやDPAなどLC-PUFAを基質としたアシルCoA合成活性が選択的に低下していたことから、Acsl6は精細胞において、長鎖アシルCoAの形成を担う主要な酵素であることがわかった。個体レベルでの受精能は、精子の数と機能によって規定されるが、精巣上体に存在する精子の数を評価したところ、ACSL6欠損マウスで大幅に低下していた。さらに、体外受精の実験系を用いて精子の機能を評価すると、ACSL6欠損マウス由来の精子では受精能が明らかに低下していた。つまり、同マウスは精子の数と機能の異常によって、雄性不妊をきたしていると考えられる。

最後に、異常精子が産生される原因を探るために精巣を解析したところ、精子の分化には異常が認められなかったものの、精子の放出の遅延と精子のアポトーシスが検出され、これらが原因で精子数と機能の低下が引き起こされている可能性が示されたという。

今回の研究成果により、精細胞においてAcsl6が長鎖多価不飽和脂肪酸CoAの形成を担う主要な酵素であり、精子形成を最適化するための生体膜環境の構築に寄与していることが示された。ACSL6とLPAAT3は、ともに精細胞に高発現しており、協調して作用することで選択的かつ効率的にDHAやDPAを膜リン脂質に取り込む機構が存在すると考えられる。研究グループは、「今後、これら酵素の機能調節、あるいはLC-PUFAを適切に補うことによる組織の脂肪酸バランスの調節が、雄性不妊の病態解明や治療につながる可能性が期待できる」と、述べている。(QLifePro編集部)

引用元:
生体膜環境の構築に重要と考えられている「LC-PUFA含有リン脂質」(医療NEWS)