味覚の秋ですね。けれども、この時期に妊婦さんを見かけると、私は、第1子のつわりが 辛つら く、食欲がなかった時期のことを思い出します。今まさに、つわりに耐えているという方もたくさんいらっしゃるでしょう。

 今回は、つわり中の妊婦だけではなく、ふつうの人でも秋から冬への季節の変わり目になることがある「気分の落ち込み」と、そのような時にかかる可能性がある「うつ病」についてお話しします。

匂いに敏感、ご飯を食べられない…「生きるのが辛い」

妊娠初期に突然の 嘔吐おうと から始まったつわりの辛さは、私の想像をはるかに超えていました。つわりには、人それぞれいろいろな症状があるようです。私の場合は入院するまでには至らなかったものの、匂いに敏感になり、ご飯を食べられなかったり、水も飲めなかったりしました。

 一般的に、つわりの症状が重いのは妊娠初期から妊娠15週頃までで、妊娠20週以降は次第に落ち着くと言われています。実際に私も妊娠5か月頃に少し落ち着きました。つわりの原因は医学的にはわかっていませんが、胎児や胎盤が子宮内である程度成熟するまでの期間になりやすくなります。

 ただ、辛い時にいつか症状が落ち着くことなんて、想像しにくいですよね。

 私は、おなかの中で赤ちゃんや胎盤が成長しているということを考えても、四六時中の吐き気が約120日も続いたなかで、精神的にまいってしまうこともありました。新しい命は、母親が命を削るような過酷な思いをして生まれるものなのだと痛感する毎日でした。「生きるのが辛い」という思いが頭をよぎったこともあります。

精神の安定に大きな影響…セロトニン不足で、うつや睡眠障害などに

 つわりが辛いと気分が落ち込む人が多く、うつ病を心配するのも珍しいことではないようです。

 私たちの脳内には、精神の安定に大きな影響を与えている「セロトニン」という神経伝達物質があります。もしセロトニンが不足すると、うつや睡眠障害などの原因になると言われています。

 セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から作られていますが、必須アミノ酸は人の体の中で作ることができないため、食事で摂取する必要があります。

 さらに、セロトニンが作られる過程で必要なものの一つが、ビタミンB6です。ビタミンB6は一部腸内で作られるため、単独での欠乏症はあまりないといわれています。

 しかし、つわりのように吐き気が強い時は、トリプトファンとビタミンB6を食事から摂取しにくいため、セロトニンが不足する可能性があります。

トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6…玄米なら一度でOK

 セロトニンが体内でしっかり作られるようにするためには、食事はどうすればいいのでしょうか。

 食べるのが辛い時は、まずは食べられるものを食べるといいでしょう。しかし、もし何を食べようかと考える余裕がある時は、トリプトファンの含まれている食材がお勧めです。

 また、炭水化物を摂取することで、トリプトファンが脳内に移行しやくなると言われています。トリプトファンは大豆や豚ロース、鳥胸肉、そして、炭水化物であるそばや白米、玄米にも含まれています。

 トリプトファンからセロトニンになる過程での異常を防ぐためには、一緒にビタミンB6も摂取したほうがいいでしょう。玄米ならトリプトファン、炭水化物、ビタミンB6が全て含まれていますよ。白米なら、焼き 海苔のり にビタミンB6が含まれているので、海苔おにぎりにするのもいいですね。

 ビタミンB6は胎児の脳の発達などにも必要で、つわりの症状自体を和らげる可能性があることも注目されています。

 サプリメントなどで効率的に摂取したい時は、必ず事前に主治医の先生に相談しましょう。

 また、つわりの症状が重く、「数日食事がとれない」「体重が5%以上減る」「嘔吐を繰り返して脱水となり、尿回数も減る」などの場合は、妊娠悪阻になっている可能性があります。早めに受診した方がいいでしょう。

日照時間が短くなる…ふつうの人も「冬季うつ病」「季節性うつ病」になる可能性

 ところで、気分の落ち込みから、うつ病や睡眠障害を発症する可能性があるのは、妊婦さんだけではありません。

 秋から冬へと季節が移り変わる今のような時期は、つわり中のように体調が悪いわけでも、悲しいことがあったわけでもないのに、気分が落ち込みやすくなることがあります。

 この場合、気分が落ち込むのは、日照時間が深く関係していると言われています。この時期の日照時間は次第に短くなっていきますね。

 一年の中で、最も昼の時間が長い6月の夏至と、最も昼の時間が短い12月の冬至を比べると、なんと4時間半以上も差があるのです。

 日照時間が短くなることは、脳内のセロトニンの機能低下につながる可能性があります。そして、冬季に日常生活に支障が出るほど気分が落ち込み、春先になると自然と回復するようなことが2年以上続くという周期性のあるものは、「冬季うつ病」や「季節性うつ病」と診断されることがあります。

 これらのうつ病の症状は、気分の落ち込みに加え、「体がだるく感じる」「睡眠時間は足りているはずなのに眠たい」「食べ過ぎてしまう」といったこともあるようです。

 まだ解明されていないこともありますが、季節性うつ症状がある人の多くに、体内時計がずれている傾向があるようです。また、メラトニンという体内時計を調節するホルモンが分泌する時間に、変化があることも 解わか ってきているようです。実は、メラトニンもトリプトファンから作られています。

体内時計のずれ…太陽の光を浴びてリセット

体内時計のずれをリセットするためには、朝の強い光を浴びる方法がよいと言われています。ここでのポイントは、強い光が必要であることです。太陽光は数万から十数万ルクスと、とても強い光です。

 しかし、家庭用の照明器具は500〜1000ルクスしかないため、効果はないそうです。つわりなどで体調不良のある方は、体を起こせないこともあるでしょう。

 とにかく休むのが一番体にいい、という時もあります。自分で動けない時は、他の人にカーテンを開けてもらい、太陽光を積極的に部屋に取り入れるようにしましょう。太陽光を浴びてセロトニンを増やすことも期待できます。

 ちなみに、季節性うつ病の治療には、2500〜1万ルクスの初夏のような強い光の環境を1、2時間作ることが有効で、1週間ほどで改善することが多いと言われています。このことからも、太陽光が人間に与える影響はとても大きいことがうかがえますね。

長期的な体調不良を乗り切るために…一人でかかえこまない



 妊婦さんだけではなく、気分の落ち込みが数日続いた時は一人でかかえこまないで、まずは身近な人や、医師などの医療関係者に伝えてくださいね。長期的な体調不良を乗り切るために、ほんの一瞬でも気持ちを持ち直す機会があるといいですね。


引用元:
秋から冬への変わり目に気分が落ち込む…つわり中の妊婦さんも「セロトニン不足」にご注意(読売新聞)