11人に1人が罹患する
小林麻央さんや矢方美紀さんという若い世代が乳がんにかかったニュースが流れて以来、「乳がん検診を私も受けたほうがいいの?」「乳がん検診を受けてないから不安…」と悩む20代、30代の女性が数多くいらっしゃいます。今年9月には、上皇后美智子様が乳がんの手術を受けられ、早期発見だったことも報じられました。
日本女性に最も多いがんは、乳がん。11人に1人が乳がんになると言われ、罹患率、死亡率ともに年々増加しています※1
。早期発見、早期治療が重要なことは言うまでもありません。 ※1 国立がん研究センターがん情報サービス
受ければいい、では思わぬ事態に
ただ、がん検診は“受ければいいってものではない”ことをご存じでしょうか? 正しい検診を選んで受けないと、思わぬ事態を招くことだってあるのです。
乳がん検診は、40歳から2年に1回のマンモグラフィ検査です。これがエビデンス(科学的根拠)のあるがん検診で、不利益より利益が上回る検診です。たとえば、乳がん検診を40歳未満の20代、30代の若い年齢で受けたり、2年に1回よりも短い間隔で受けると、不利益が上回ってしまうのです。
がん検診は、何歳から、どのくらい(何年に1回)の頻度で、どの検査を受けたらいいか、科学的根拠のもとに定められています。実はこれらの年齢と受診間隔には、検診による利益(がんによる死亡率の減少)があるとともに、検診による不利益が最も小さくなる内容が考慮されているのです。
しかし、企業検診でお金のある健保組合では、「うちの会社は、女性社員全員に20代からマンモグラフィ検診を受けさせている」「うちの健保は乳がん検診は超音波とマンモグラフィを両方受けられる設定にしている」と鼻高々にうたっていることもあります。しかし、がん検診は、やりすぎると不利益を被ることだってあるのです。
再検査、精密検査のリスク
乳がんによる死亡を減らせることが科学的に認められ、乳がん検診として推奨できる検査方法は、「マンモグラフィ単独」です。「超音波とマンモグラフィの併用」や「超音波単独」、あるいは「視触診単独」の乳がん検診では、死亡率を減らす効果を判断できる証拠が不十分なのです。そのため、これらの検査は、国が“がん検診で行うことは奨められない”としています。自治体検診(対策型検診)としての実施も奨めていません。
乳房の「超音波検査」は、乳房のしこりを見つけやすい有用な検査ですが、しこりの中には良性のしこりもあり、特に20〜30代の人が超音波を受けると、多くの人に良性のしこりが見つかる可能性が高まります。もちろん40代以上の人にもその可能性があります。
しこりが見つかると、精密検査が必要になり、さらにマンモグラフィを受けて被曝のリスクを負うこともあります。また、精密検査では、乳房に針を指して細胞や組織を採取する、細胞診や組織診が行われます。特に組織診は、局所麻酔をして太い針を刺して組織をとる検査で、これが結構大変。体への負担も無視できません。超音波検査をすると、細胞診や組織診で針を刺す精密検査をする人が増えるのです。その結果、がんではなく、良性だったという人が数多く出てしまいます。
がん検診の不利益はほかにもあります。心理的影響と経済的、時間的負担です。精密検査の結果が出るまで、「がんかもしれない…」と精神的に不安な状態になります。会社を休まなくてはならないなどの時間的負担や、精密検査の費用などの経済的負担も伴います。
もしも、人間ドックなど(任意型検診)で国が推奨していないがん検診を行う場合には、死亡率を減少させる効果が不明であることや、利益よりも不利益が上回ることについて、医療者が適切な説明を行うべき、とされています。ですが果たして、どこまで説明されているか曖昧なのが現状です。
乳がん検診が推奨されるのは40歳以上の“症状のない”女性です。しこりや乳頭分泌などの症状がある人、さらに血縁に乳がんや卵巣がんの方が複数いる人(家族性乳がんや遺伝性乳がんが疑われる方)は、年代にかかわらず(20〜30代でも)、“検診”ではなく、乳腺外科を受診して“診察”で検査をしてもらうことが大切です。
「超音波とマンモの併用」は何が問題?
「超音波とマンモグラフィを組み合わせたほうがより、がんをより発見しやすいのでは?」「早期発見するためにはいくつも検査を組み合わせてほうがいいのでは?」と思う人もいるでしょう。
しかしながら、「マンモグラフィと超音波の併用」もまた、利益が不利益を上回る証拠がまだありません。今、「マンモグラフィ単独」と「マンモグラフィと超音波の併用」でどちらが利益が上回る検診になるかどうかを調べる大規模な臨床研究が行われています。結果ができるのはまだ10年程度先になります。現状では、「マンモグラフィと超音波の併用」によるがん検診では、がん発見率は高くなるものの、死亡率低下につながるかどうかはわかっていません。
「がん発見率が高いのはいいことでは?」と思うかもしれませんが、発見率が高くても死亡率が低下しないと、がん検診としては推奨されないのです。たとえば、進行がゆっくりのがんで症状が表に現れず、命にかかわらないがんまで見つけてしまう(過剰診断)可能性があり、不必要な検査や治療が行われる場合があるかもしれないからです。
これはあくまで、がん検診だからです。何か気になる“症状があって”乳腺外科で診察する場合は、別です。マンモグラフィや超音波で症状の原因をさぐる検査をします。症状のある人に行うのは診察です。一方、症状のない人すべてに行うのが検診。だから検診を受けることによる不利益が少ない検査であることが大切なのです。
がんが見つかりにくい乳房の人がいる
一方、マンモグラフィも完璧ではありません。もうひとつ、乳がん検診で論議を巻き起こしている問題があります。「高濃度乳房(デンスブレスト)」です。これは、乳腺濃度(乳腺が乳房内にどれだけ存在するかの割合)が高く、マンモグラフィでしこりが見えにくい乳房のことです。
この高濃度乳房が、実は日本人を含むアジア人に多いタイプの乳房なのです。高濃度乳房を持つ日本女性は、報告によって幅がありますが4〜8割と言われています。
乳腺もがんも“白く”写る
乳がん検診で医師は、マンモグラフィの画像を4分類に分けて判定しています。下記画像の右2つが高濃度乳房です。
では、高濃度乳房である場合、どのような問題点があるのでしょうか。それは、マンモグラフィでは、乳腺もがんも“白く”写るため、乳がんが見つけにくいことです。「雪原の白うさぎを探すかのようだ」と乳がん画像診断の専門の医師も言います。一方、欧米人に多い脂肪性乳房は、乳腺が少なく、マンモグラフィでは黒く写るため、白く写るがんが見つけやすいのです。また、高濃度乳房は、脂肪性の乳房に比べ、乳がんの発症リスクがやや高いことも看過できません。
にもかかわらず現状では、高濃度乳房でがんの有無が判断できなくても、「異常なし」という結果になってしまいます。また、高濃度乳房であるかを通知している自治体や医療機関は少しずつ増えてはいますが、多くは今も通知していません。
「異常なし」と結果が出ても
まずは、自分の乳房が高濃度乳房か把握しておくことが重要です。高濃度乳房かどうかを知るには、マンモグラフィ検診後、「私は高濃度乳房ですか?」と聞いてください。もし、高濃度乳房なら、マンモでは見えないわけですから、自己負担で超音波を加えるという選択肢もあります。また、マンモと超音波を1年おきに交互に受けていくという手もあると思います(もちろんこれは、マンモが推奨される40代以上での話です)。
前述した大規模臨床試験の結果が出れば、マンモと超音波を併用する乳がん検診に変わると思います。しかし現状では、自分で対策をしなければならないのが実情です。
また、「異常なし」と結果が出ても、高濃度乳房かどうかがわからない、高濃度乳房であるために診断が不安、という場合は、月1回の自己触診を行って、乳房に関心をもつとよいと思います。何かいつもと違うことに気づいたら、検診で異常なしでも、乳腺外科を受診するのをお勧めします。
とはいえ、マンモはしこりになる前の石灰化(カルシウムの沈着)をともなう乳がんを見つけるのは有用な検査で、エビデンスのある乳がん検診であることには変わりありません。
今、国が推奨するのは、胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5種類のみです。それぞれ科学的根拠に基づいた検査法、対象年齢、受診間隔があります。高価な人間ドックを受けるのもいいですが、まずはこの5つのがん検診を検査法、対象年齢、受診間隔を知って受けることが自分の体を守る近道になるのです。
増田 美加
引用元:
日本女性の4〜8割が持つ「高濃度乳房」が乳がん発見を困難にする(現代ビジネス)