戦前に比べると初経の平均年齢が下がり、平均出産回数も減っている現代の女性。その結果、閉経までの生理の回数は増加傾向にある。しかし、生理の回数が多くなるほど、卵巣がんのリスクが高まると言われ、さらに乳がんや子宮体がんといった病気もまた生理の回数が関係していると指摘されている。

 つまり、生理が引き起こす病気のリスクと向き合わなければならない女性たちだが、うまく生理とつきあうために今、服用を見直されているのが、ピルだ。

 ピルとは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類の女性ホルモンが入った薬のことで、超低用量のものから低用量、中用量とさまざまな種類がある。

 もともとは避妊薬として使われてきたピルだが、のみ続けることによって、病気のリスクを下げることもできるという。赤羽駅前女性クリニック院長の深沢瞳子さんはこう説明する。

「ピルを服用すると、エストロゲンの値を一定に保つことができるので、排卵による爆発的なエストロゲンの増加によって引き起こされる子宮内膜症や子宮体がんのリスクを引き下げるという報告もあります」

 東峯婦人クリニックの松峯美貴さんもがんのリスクについて言及する。

「ピルによって排卵が止まるため、妊娠を望まない時期に卵巣の細胞を傷つけることがなくなる。細胞が傷つかなければ、細胞の修復時にがん化する確率が減るので、卵巣がんの発症リスクを下げることもできます」

 ピル服用のメリットは、こうした病気を防ぐことだけではない。快適な生活を送ることができるという利点もある。

「生理痛を和らげたり、月経血の量を減らしたりすることが可能ですし、生理の期間も短くなります。何より月経不順を改善できるため『生理がいつ来るかわからない』という煩わしさから解放されます」(深沢さん)

 さらに、毎月生理の症状が重くてつらい人も、ピルで症状を緩和できる。医療ジャーナリストの増田美加さんはこう話す。

「低用量ピルは、日常生活に支障が出るほどひどい生理痛をともなうような月経困難症の保険適用の治療薬としても使われています。月経前症候群と呼ばれるPMSも改善されることが多く、低用量ピルを使うことで生活の質は向上します」

 PMSとは、月経の数日前に続く精神的あるいは身体的な症状のこと。いつもは気にならないようなことにイラつくといった情緒不安、眠気、のぼせ、倦怠感ほか、症状は多岐にわたり、生理が始まるとその症状は軽くなる、もしくはなくなる。

 こうしたPMSのほか、生理に関連する症状にはさまざまなものがあるが、日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査結果」では、婦人科系疾患を抱えて働く女性の総労働損失は、4.95兆円と試算されている。

 また、海外のデータでは、生理痛が重い(月経困難症の)人と、軽い人を比べると、生理痛が軽い人の方が学業の成績がよかったという報告もあると深沢さんは言う。

「就職に関しては、生理痛が重い人は軽い人に比べ1.8倍、希望先に就職できていない。生理痛やPMSがある場合、体調がよくてベストパフォーマンスを出せる時期は、月経後の1週間しかありません。でもピルをのんでいれば、常に同じくらいのパフォーマンスを出せるのです」

 生理のつらさから解放され、子宮や卵巣を疲弊させない方法は、ピルをのむか、妊娠・授乳かのどちらかしかない。昔と違って女性の役割も変わってきている今、親世代は子供の体を守るためにも、ピルという選択肢を知っておくことが大切だ。

昔は親の側に知識がなく、ピルをのみたいと相談したら「あんな怖いものをのむなんて」と反対されたものだが、偏見は少しずつ取り払われている。

 もちろん薬であるピルには、デメリットもある。なかでも血栓症のリスクを高めることが指摘されている。松峯さんは血栓症のリスクについて次のように解説する。

「ピルの成分であるプロゲステロンによって血液が凝固しやすく、場合によっては血栓症が引き起こされることもあり注意が必要です。ですが妊娠した場合、プロゲステロンの血中量は、ピルをのんでいる人の100倍にもはね上がるのです。すなわち自然妊娠でも血栓症のリスクは相当高いのです」

 また、ピルをのむ人は血栓症の心配がないか、定期的に血液検査を受けることになっている。

引用元:
生理に関係する病気のリスクを軽減 見直されるピル服用(NEWSポストセブン)