科学でわかった「妊娠中に使えるコツ」


クレア・ルウェリン ヘイリー・サイラッド 上田玲子 須川綾子

乳幼児の食事と健康について、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで世界的に知られる研究チームを率いて、100本近い論文を発表してきたクレア・ルウェリンとヘイリー・サイラッドは、赤ちゃんの食事について、次のように語る。
「最初の1000日の経験が人生のほかのどんな時期よりも将来の健康と幸福に大きく影響することが、世界の科学者のあいだで広く認められています」「赤ちゃんがどんな食べ物を口にし、どんな習慣を身につけるかは、生涯にわたる影響をもたらすのです」
受胎してから2歳くらいまでのあいだに、どんなものをどのように食べてきたかが、「健康」「好き嫌い」「肥満」「アレルギー」など、その後の人生に大きく影響するというのだ。
では、何をどう食べたらどんな好影響・悪影響があるのか? 「妊婦は何を食べるといいか」から「母乳の効果、ミルクの効果」「離乳食は何をどうあげるべきか」といったことまで、クレアとヘイリーはそのすべてを『人生で一番大事な最初の1000日の食事』(上田玲子監修、須川綾子訳)にまとめた。同書の日本版発売を記念して、一部を特別に公開したい。

つわりはなぜ起きる?

 妊娠初期を中心とする吐き気や嘔吐は、妊婦の半数以上が経験するものです。これは朝だけでなく、1日のあらゆる時間帯に起きます。食べ物のにおいや香水、タバコの煙などが引き金になることもあります。

 妊娠中の吐き気や嘔吐の原因についてはあまり解明されていませんが、妊娠にともなう生物学的変化(ホルモンなど)によるもの、というのがおおむね一致した意見です。

 なかには害のある食べ物や物質を避けたり、体から排除したりするための防御機能ではないかと考える研究者もいます。この説には裏づけとなる根拠もあります。たとえば、つわりがいちばんひどい時期が、胎児の発達にとくに悪影響が出やすい妊娠初期である、といったことです。

それはともかく、どうすればいい?

 それはともかくとして、つわりの症状は重いと本当につらいものです。そんなとき、症状をやわらげるにはどうすればいいでしょう?

 妊娠中の吐き気にはショウガが効くことを示すデータがありますが、一貫性のあるデータとは言えません。それどころか、食事によって症状を緩和する工夫については本格的な研究がなされていないのが現状です。それでも、吐き気や嘔吐に悩まされているときは、レモンジンジャーティーを試す価値はあるでしょう。

 公衆栄養学の独立した慈善機関であるファースト・ステップ・ニュートリションでは、ほかに3つの提案をしています。

その1:淡白で水分の少ない軽食を、一定の間隔で少しずつ食べる(何もつけないトーストなど)。
その2:朝起きたときに水分の少ない軽食を食べる。
その3:脂っこい食べ物や辛い食べ物、においの強い食べ物を避ける。

 人によってはつわりに加えて、コーヒーや揚げ物など、特定の飲食物に強い嫌悪感を抱くことがあります。

 また妊娠中には、猛烈な食欲を感じたり、特定のものをむしょうに食べたくなったりすることも珍しくありません。妊娠中の食欲増進は50〜90パーセントの女性が経験すると考えられています。

 妊娠中に脂肪や砂糖を多く含む食べ物(ケーキやキャンディ、チョコレートなど)への欲求が高まると、摂取するカロリーの総量が増え、さらには母体の体重が増えすぎるおそれがあります。

 猛烈な食欲にとりつかれたら、抵抗するのはかなり大変だと痛感するはずです! できるだけ健康的なおやつを選ぶ努力をしましょう。

健康的なおやつのアイデア
● 新鮮な果物
● ニンジン、セロリ、キュウリのスティック
● プレーンヨーグルト
● ゆで卵
● カッテージチーズをのせたクラッカー
● アボカドのディップを詰めたピタパン

(本原稿は、『人生で一番大事な最初の1000日の食事』〈クレア・ルウェリン、ヘイリー・サイラッド著、上田玲子監修、須川綾子訳〉からの抜粋です)

クレア・ルウェリン(Dr. Clare Llewellyn)
オックスフォード大学卒業。乳幼児の食欲と成長についての遺伝疫学の研究で博士号を取得。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン准教授。同大学公衆衛生学部疫学・保健研究所の行動科学・健康部門において肥満研究グループを率いる。人生の最初の瞬間からの摂食行動を探求するため、史上最大の双子研究「ジェミニ」に参加。また、子どもの食に関して70以上の科学論文を発表。英国王立医学協会ほか、世界中で40以上の招待講演を行っている。英国肥満学会、欧州肥満学会、米国肥満学会などの研究機関から多数の国際的な賞を受賞している。

ヘイリー・サイラッド(Dr. Hayley Syrad)
心理学者。2007年にサウサンプトン大学で心理学学士号を、2016年にユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの保健行動研究センターで行動栄養学の博士号を取得。乳幼児が「何をどう食べるか」に関して食欲の役割に焦点を当てて研究。幼児の摂食行動について、多数の記事を執筆、注目を集めている。

監修者:上田玲子
帝京科学大学教育人間科学部教授。幼児保育学科長。博士(栄養学)。管理栄養士。日本栄養改善学会評議員や、日本小児栄養研究会運営委員なども務める。乳幼児栄養についての第一人者。監修に「きほんの離乳食」シリーズや、『はじめてママ&パパの離乳食』『マンガでわかる離乳食のお悩み解決BOOK』(いずれも主婦の友社)など多数。

訳者:須川綾子
翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。訳書に『EA ハーバード流こころのマネジメント』『人と企業はどこで間違えるのか?』(以上、ダイヤモンド社)、『綻びゆくアメリカ』『退屈すれば脳はひらめく』(以上、NHK出版)、『子どもは40000回質問する』(光文社)、『戦略にこそ「戦略」が必要だ』(日本経済新聞出版社)などがある。


日本語版監修者より――科学的根拠に基づく信頼できるアドバイス

 本書は妊娠期(胎児期)から授乳期、離乳期、幼児期前半の2歳まで、つまり人生最初の1000日間に必要な「栄養」と授乳を含めた「食」、そしてその「与え方」について書かれたイギリスの本である。

 1000日間を各時期に分断するのではなく連続的に捉え、「生涯続く健康的な食習慣を子どもに身につけてもらうこと」を中心テーマにし、数々のアドバイスを豊富な科学的データの裏付けのもとで行っている。

 この本の特色は……

・「実用書」である――本書を初めから順にすべてを読み通す必要はない。妊娠期(胎児期)、授乳期、離乳期、幼児期のパートごとに章立てしてあるので、必要なパートを読むことで日々の食生活にすぐに活用できる。各パートには何をどれだけ食べさせるか、どのように食べさせるかがわかりやすく具体的に示されている。特にどのように食べさせるかについての知見は他に追随を許さない内容である。一読をぜひお勧めしたい。

・「教養書」である――信頼できる豊富な調査研究結果から引き出された妊娠期(胎児期)、授乳期、離乳期、幼児期の栄養と食に関する知見に触れる機会が得られる。これにより深く広く柔軟な思考を生みだすことが可能になり、命を支える食についての洞察を深めることができる。

・「学術書」である――科学的根拠に基づいたデータの裏付けをもとに構成されており、査読も実施されている。そしてそれぞれのアドバイスには裏付けとした参考文献が示されている。さらにデータ不足で科学的に意見が分かれる話題や確立されていない話題にはその事情を示している。このため栄養や育児の専門家ばかりではなく広い分野の研究者の方々が読まれても十分に読み応えのある内容となっている。

 このような3つの視点から幅広い対象者によって読み進めることができる本書の特色は、育児書の分類に入るであろう本の中ではたぐいまれなことである。

 つまり、本書は実用書としてこれから子育てをなさる方や子育て中の方だけでなく、食と健康、食と命に関心のある方すべての方に興味深くお読みいただける内容なのである。

 ようこそニューワールドへ。

 科学的知見に満ちた栄養と食の新世界をどうぞお楽しみください。

 なお、本書の内容には日本でも取り入れたい新しい知見が豊富な半面、日本とイギリスでは食環境や食生活等において違いもある。そこで本書には文中に「監修者より」という注を入れ、日本での一般的な基準や、本書の方法を取り入れるにあたって気をつけてほしいことを示した。ご活用いただければ幸いである。(帝京科学大学教授・上田玲子)


引用元:
「つわりの重い人」が絶対に試すべき3大解消法(ダイヤモンド・オンライン)