子どもの虐待や遺棄など痛ましいニュースが続く中、親が育てられない乳幼児を匿名でも預かる慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」が、あらためて注目されている。2007年5月の運用開始から12年間で預かった累計は144人。運用を巡っては賛否両論があり、いまだ国内には追随施設が登場していないが、多くの命が救われている現実から目をそらさず、支援のあり方を考えたい。

 「いま思えば、市長はよく半年でOKを出されたなと感じます」−。慈恵病院の蓮田健副院長は、こうのとりのゆりかごの構想発表から比較的短い期間で市が設置許可に踏み切ってくれたことを振り返りつつ、幼い命を救いたい一心で病院スタッフが一丸となって運用を続けていることを強調する。

 慈恵病院は熊本駅から車で約10分、市中心部の閑静なエリアにあり、赤ちゃんポストに通じる通路は木々で囲んで外から見えにくいように配慮されている。扉を開け、その奥のベッドに赤ちゃんを預けると、ブザーが鳴り、夜間であってもすぐに看護師らが駆け付ける。ベッドの隣には親との相談室が設けられている。

 乳幼児の預かりが最も多かったのは08年度の25人。その後は減少傾向で、17、18年度はいずれも7人だった。親の居住地は九州だけでなく全国一円で、預け入れの理由としては生活困窮や未婚であること、世間体などを挙げる人が多いという。

 開設を巡っては当初から賛否両論が出た。根底にあるのは、親が名前を明かさなくても預かる匿名性の受け止め方である。望まない妊娠に直面した親が最後に頼る場であり、匿名だからこそ預ける決断を促せると病院側がみる一方、子どもが出自を知ることができないとして否定的な見方をする人も依然多い。

 3年前のことになるが、鳥栖市で開かれた里親制度を考えるセミナーで慈恵病院の看護部長を務めた田尻由貴子さんの話を聞いたことがある。強調されたのは、子どもを社会で育む大切さだ。田尻さんは、この世に生まれなかったかもしれない命が里親の愛情を受けながら幸せに育っている事例などを紹介。「子どもは親のものでなく社会のもの」と訴えた。要保護児童に占める里親委託の割合はイギリスなど欧州諸国が50〜70%程度なのに対し、日本は10%強にとどまっていることも指摘した。

 慈恵病院がいま目指しているのは、予期せぬ妊娠をした母親が匿名で出産し、子どもが後に出自を知ることができる「内密出産」の導入だ。匿名出産とは別で、子どもが親を知る権利を保障できるという。

 赤ちゃんポストの年間経費は約2千万円。寄付以外はほぼ慈恵病院の持ち出しというのが現実だ。熊本市も一地方自治体、一民間病院で解決できる問題ではないという認識である。子どもを社会でどう育てるのか。国の児童福祉の根幹に関わる問題と受け止め、論議を深めてほしい。(杉原孝幸)

引用元:
赤ちゃんポスト 命を守るため、活発に論議を(佐賀新聞)