親、兄弟、親戚にがんが多い家系のことを、青森県の津軽地方では「がんまき」というようです。この記事を読んでくださっている読者の皆さんやその周囲にも、「家族にがんになる人が多い」という人がいるのではないでしょうか。ただ、2人に1人ががんになると言われる時代ですから、確率的に言って、家族の中にがんになる人がいるのは普通かもしれません。

 話はかわりますが、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんをご存じでしょうか?

 彼女が予防的乳腺摘出術を受けたことを2013年にニューヨーク・タイムズに寄稿した際の衝撃は大きいものでした。このことが日本で大きく取り上げられて、遺伝性乳がん卵巣がん症候群という言葉が認知されるきっかけとなったのです。

 遺伝性乳がん卵巣がん症候群においては、家族や親戚に乳がんや卵巣がんになる人が多いことが知られており、英語の頭文字をとってHBOCとも言います。

 日本人が生涯のうちに乳がんを発症するのは9%、卵巣がんは1%と言われています。しかしHBOCの人の場合、乳がんになるのは40〜90%、卵巣がんは10〜60%と言われています。必ずがんになるというわけではありませんが、がんになる確率が高いことは一目瞭然です。

 HBOCの原因は、ある遺伝子の変異です。遺伝子とは体の設計図のようなものと考えてください。親から子に伝えられるもので、HBOCは「BRCA1及び2」という遺伝子の変異が原因ということがわかっています。この変異は2人に1人の確率で、男女を問わず次の世代に受け継がれていきます。卵巣がんの場合は40歳以降に発症する確率が高くなります。男性も膵臓(すいぞう)がんや前立腺がんが多くなることがわかっています。

 HBOCは日本の卵巣がんの10%程度と言われています。HBOCの特徴は表に示した通りです。これらのいずれかに該当する人は、婦人科や乳腺外科の医師に相談してはいかがでしょうか。

 HBOCを疑う場合は、遺伝カウンセリングが重要です。遺伝カウンセリングでは、HBOCの患者さんや家族に対して、その遺伝情報を提供し、遺伝子診断やその診断をふまえ、どのような治療を受けるべきか否かについて、決めていただくことを手助けします。がん患者である本人がHBOCであるのなら、その子どもは2人に1人の確率で乳がんや卵巣がんになる確率が高いからです。

 そのような遺伝情報を知りたい方、知りたくない方がいるので、遺伝カウンセリングを受けたうえで、がん患者本人のみならず、その方の子どもさんを含めた血縁者に遺伝子検査を受けるか否かを決めていただく必要があります。遺伝子検査は少量の血液で行うことができます。ただしこの検査は公的医療保険がきかないため20万円ほどかかります。

 HBOCには予防法はあるのでしょうか?

 現時点ではアンジェリーナ・ジョリーさんも受けた予防的乳腺・卵巣卵管切除です。この手術を受けた後にまれに腹膜がんになることが知られていますが、乳がんや卵巣がんになる危険性を大幅に減らすことができます。

 卵巣を摘出すると自分の子どもができないのですが、予防的卵巣卵管切除は40歳以降に行うことが多い手術です。これはおなかに開けた小さな穴からカメラを入れて行う比較的簡単な手術ですが、医療保険の対象になっていないため100万円程度の費用がかかるうえ、どこの施設でもできるわけではありません。

 またHBOCの原因となる遺伝子であるBRCAを標的とした薬剤が、18年から再発卵巣がんに対して治療に使用されています。PARP阻害剤というお薬です。今後この分野の治療薬がどんどん開発されていくと思います。

 最後に、遺伝する卵巣がんがあること、そして現在はそのがんにも対策があるということを覚えていただきたいと思います。(弘前大学大学院医学研究科産科婦人科学講座准教授 二神真行)

《遺伝性乳がん卵巣がん症候群の特徴》

・若年で乳がんを発症する

・トリプルネガティブ(二つのホルモン受容体やHER 2というがん遺伝子の発現のみられない)乳がん

・両方の乳房ないし同じ側の乳房に複数のがんができる

・乳がんと卵巣がんの両方を発症する

・男性で乳がんにかかる

・以下のがんを家系の中に発症した人が複数いる

 乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/

引用元:
遺伝性乳がん・卵巣がん カウンセリングで正しい情報を(朝日新聞デジタル)