受動喫煙というと、まずは副流煙や吐出(呼出)煙の吸入、いわゆる2次喫煙を思い浮かべることが多い。しかし、たばこの煙の残留物による3次喫煙も健康リスクを有することが指摘されている。

 たばこの煙の主な有害成分は一酸化炭素、ニコチン、そしてタールである。ニコチンやタールは喫煙者の皮膚や毛髪などの身体、衣服だけではなく、周囲の床や壁、カーテン、家具などにも付着する。付着した煙の残留物やそれから変化した物質を吸収することを、3次喫煙(サードハンドスモーク)、あるいは残留受動喫煙という。付着したニコチンは、化学反応により発がん性物質のニトロソアミンに変わるとの研究報告もある。

 3次喫煙は、揮発したガス成分の吸入だけにとどまらないことに注意する必要がある。乳幼児は床を這(は)う際、床に付着したたばこの煙の残留物を手や着衣に付着させ、また喫煙者に抱かれることで、その着衣や皮膚の煙残留物に触れることなどで体内に取り込む可能性が高い。両親が喫煙する場合の乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクは数倍に高まるといわれており、その予防のために禁煙が呼びかけられている。

 乳幼児の3次喫煙を防ぐには、両親はじめ同居者全員が禁煙する以外に方法がない。平成29(2017)年の国民健康栄養調査の年代別喫煙率をもとに、子育て年代のカップルの喫煙率を推計した結果を表に示す。子育て世代の中心となる30歳代〜40歳代のカップルの3・4%〜4・9%程度が2人とも喫煙者と推定される。

 そこで、2017年の人口動態統計データを用い、北関東3県の赤ちゃんについて両親がともに喫煙者の下で生まれる人数を推定した。北関東3県の喫煙率は全国平均より高いが、今回は全国平均を用いた。妊娠が分かり禁煙する女性もいるので、実数はもっと少ないかもしれないが、茨城県で570人、群馬県で370人程度の赤ちゃんが3次喫煙を含む受動喫煙の危険に直面していると思われる。

 群馬大大学院で妊産婦の禁煙支援に取り組む篠崎博光教授によると、女性は妊娠が分かると約3分の2の人が禁煙するが、出産後には禁煙者の半数が喫煙を再開するという。また、高崎健康福祉大での調査結果からは、母親あるいは両親が喫煙者である場合、子どもが喫煙する割合が高いことが判明している。こうしたことから、未成年を含む女性の禁煙支援や喫煙防止は重点的に取り組むべき課題と考える。以前にも提案したが、カップル禁煙支援の制度化をぜひ検討していただきたい。

引用元:
〈たばこと健康〉3次喫煙に無防備な乳幼児(産経新聞)