生まれたばかりの赤ちゃんに先天性の病気がないかを調べる「新生児マススクリーニング」。熊本、福岡両県では、国の指定難病「ライソゾーム病」も任意で検査しており、全国でも珍しい取り組みという。治療法の開発に伴い、早期診断が病状の進行抑制につながるようになった。検査の普及を図る熊本大や福岡大の関係者は「より多くの地域で多くの人に検査を受けてほしい」と呼び掛ける。 

 新生児マススクリーニングは1977年に公費負担でスタート。現在はフェニルケトン尿症など先天性代謝異常約20疾患を検査できる。検査は、生後数日の赤ちゃんの足の裏から数滴の血液を濾紙(ろし)に染み込ませて行う。

 熊本、福岡両県ではこの濾紙を利用する形で、ライソゾーム病の一部(ファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病、ムコ多糖症T型、同U型)の任意検査を実施。費用は医療機関で異なるが、数千円〜1万円程度。熊本県の天草市は上限5千円、山江村は同7千円など、補助金を出す自治体もある。

 熊本では2006年、福岡では14年に始め、現在は新生児の90%以上が検査を受ける。全県規模での実施は他に愛知だけという。

 ライソゾーム病は、細胞内のライソゾームの中の酵素が先天的に欠損しているため、老廃物が排出されずに体内にたまってしまう。進行性で、結果的に心不全や臓器不全などが起こる。

 原因となる酵素の種類により、約60種類に分類され、症状もさまざま。以前は治療法がなく、亡くなる確率も高かった。両県が任意検査をする5疾患に関しては1996年以降、欠損している酵素を補完する「酵素補充療法」が順次承認され、治療が可能になった。

 ただ、発症率は数千人〜数十万人に1人とされる希少疾患のため、手足の強い痛みや筋力低下などの症状から診断するのは難しい。また、進行してから治療を始めても効果が限られてしまう。

 熊本では3月末までに21万2797人が検査を受け、ファブリー病23人、ゴーシェ病2人が見つかった。福岡は12万669人のうち、12人がファブリー病と診断された。ポンペ病やムコ多糖症と診断された例はない。

 診断を受けた赤ちゃんは適切な医療機関での受診につながっている。遺伝するケースもあるため、赤ちゃんの家族の病気も分かり、治療を始めたケースもあるという。熊本大病院小児科の中村公俊教授は「早く治療を始めれば、ほとんど進行しない。身体機能を保ったまま、生涯を送れる可能性もある」と強調する。

 検査の普及には、行政や産科医の協力が不可欠。福岡大医学部小児科の広瀬伸一主任教授は「診断・診療体制を強化するとともに、病気についての理解を広めていきたい」と話す。

 ●「もっと早く 診断されていたら」 3歳で異常 小6でポンペ病 福岡市の女性

 「治療法がある今、診断が遅れたらと考えるとぞっとする」。福岡市の女性(30)はライソゾーム病の一種「ポンペ病」を患う。

 ポンペ病は全身に重度の筋機能障害が起こり、首が据わらない、呼吸しにくいなどの症状がみられ、進行すると命にかかわる。発症率は欧米などの調査から約4万人に1人とされる。

 女性は3歳でたまたま受けた血液検査から筋肉の異常が見つかったものの、「筋ジストロフィーの疑い」とされ、診断は確定しなかった。治療を受けることはなく、小学校では運動会や体育の授業にも参加。普通の生活を送った。

 小6で急に階段を上るのが困難になり、ようやくポンペ病と診断された。当時は治療薬が未承認だったため、食事に気を付け、筋疲労につながる運動を控えるなど、生活を変えるしかなかった。

 車椅子に頼るようになった高3の夏、やっと承認された「酵素補充療法」を開始。2週間に1回、点滴治療を受けることで進行は抑えられた。治療を受けながら医学部に進学し、医師免許を取得。現在は内科医として勤務する。1人暮らしも実現し、車椅子で地下鉄通勤を続けている。

 近くで見守る母親(57)は悔やむ。「もっと早く診断されていれば、タンパク質を多く取り、運動を控えて筋肉を壊さないようにできたかもしれない」。女性は「今は治療法もあるため、早く見つけて治療を始めれば未来は広がる。新生児検査は圧倒的にプラス。つらい思いをする子どもを減らすためにも全国的に広がってほしい」と実感を込めて訴えている。

引用元:
新生児に先天性の「難病」検査 早期診断で病状進行抑制へ 熊本、福岡では全県規模で実施(西日本新聞)