海外では早くから販売されていたが、日本では今春から販売が始まった「乳児用液体ミルク」がメーカーの予想をはるかに上回る業績で好調だという。

 乳児用液体ミルクとは、生後12カ月までの乳児が母乳の代わりとして飲む栄養成分を調整された液体状のミルクのことだ。粉ミルクのように水で溶かす必要もなく、店頭で購入してからスグに乳児に与えられる。

 国内では今年3月に江崎グリコが『アイクレオ赤ちゃんミルク』、そして4月には明治が『らくらくミルク』という商品名で乳児用液体ミルクを発売した。ドラッグストア店長は「発売と同時に即売り切れた」と驚く。

 「江崎グリコではネット通販で先行発売したところ、購入希望者のアクセスが殺到して、ネットが繋がりにくくなったほどです。実際、当初の販売予測の3倍ほどの売れ行きだったらしいです。また、明治でも当初予測の2倍超えの売れ行きで、両メーカーとも滑り出しは絶好調です」

 乳児用液体ミルクが、なぜこれほど支持されるのか。

 日本で“乳児用ミルク”と言えば、乳児に必要な栄養素がすべてそろい、品ぞろえも豊富な粉ミルクが主流だった。粉ミルクは、スプーンで決まった杯数を哺乳瓶に入れ、70℃以上のお湯によく溶かし、それを乳児が飲めるよう水で人肌まで冷まさなければならない。

 「作るのに手間がかかると、母親たちは不満を感じていました。産まれたての乳児は吸う力も弱く、一度でたくさん飲めないため、2〜3時間ごとにおっぱいを欲しがります。その対応で新米ママは寝不足になり、ストレスで精神的に追い詰められる人もいます。旅行時には、お湯や湯冷まし用の水筒、計量スプーンといった、調乳グッズを持ち歩かなければならず、荷物になります。粉ミルク授乳は母親の負担になる場合が多いのです」(管理栄養士)

 その悩みを解決したのが液体ミルクだという。
「液体ミルクは常温で哺乳瓶に入れ替えれば5分で授乳できる。お湯や水のない粉ミルクを作る環境が厳しいときでも授乳が簡単にできます」(同)

 そもそも、欧米では1970年代から液体ミルクが発売されている。なぜ日本では50年も販売が遅れたのか。
「栄養素を満たした安全な液体ミルクを提供するには、粉ミルクと比較すると4〜5倍のコストがかかります。そして、赤ちゃんの数が少なくなる少子化時代に採算が見込めるのかと、メーカーは慎重姿勢でした。また、メーカーからの申し出がなければ販売を認可する厚労省も、安全基準や栄養面の基準を作らないため、法整備も進んでいなかったのです。加えて、日本では赤ちゃんが産まれたら母親が離職、または育児休暇をとってでも、赤ちゃんを育てるのがあたりまえという社会風土があり、母親の負担軽減などの社会的声がけが強くならなかった。こうした要素が重なり液体ミルクの開発が遅れたのです」(保育関連大学の教員)

 それでは、なぜここに来て乳児用液体ミルクが発売されたのか。食品メーカー関係者はその理由を「’16年に発生した熊本地震の影響が大きい」と語る。

 「熊本地震では、フィンランド製の乳児用液体ミルクが救援物資として配られ、利便性と1年前後の長期保存が可能な点から災害時の備蓄用として注目を浴びました。その後、食品メーカー内の子育て世代からも、液体ミルクが必要との声が出はじめたのです」(同)

 実際に乳児用液体ミルクが発売されると、災害備蓄の観点からメディアでも大きく取り上げられた。さらに、実際に使用した母親たちが、その利便性をSNSなどで発信して、一気に認知されたのだ。

 授乳に慣れていない若い父親や、乳児を両親に預かってもらうときも、乳児用液体ミルクを一緒に渡しておけば、母親も安心だし預かるほうも気楽に預かりやすくなった、という声が上がっている。今後も、乳児用液体ミルクの人気は落ちることはなさそうだ。

 「ただ、昨今は母乳での育児を推奨する動きが広がっているため、粉ミルクを含めた乳児用ミルクそのものの需要は減少していますね」(食品メーカー関係者)

 実際、明治や江崎グリコ以外の乳児用粉ミルクを販売する大手食品メーカーの森永乳業やアサヒグループ食品は、乳児用液体ミルクの販売に対して慎重姿勢を崩していない。

 「乳児用液体ミルクを日本で初めて販売した明治でさえアジアでは液体ミルクより粉ミルクの需要の方がまだ伸びると判断していて、来年に向けて120億円を投じて埼玉の粉ミルク工場に製造棟を新設します」(同)
 好発進した乳児用液体ミルクではあるが、今後も売り上げを伸ばすことができるのか。今後の動向に要注目だ。

引用元:
〈企業・経済深層レポート〉 発売と同時に即完売 乳児用液体ミルクが人気の理由(excite.ニュース)